父の人生
投稿者:太山みせる (37)
その日、優美だけに伝える大事な話があると言って、父は私を呼び出しました。
そして、
「優美、命を削ってまで叶えたい願いはあるか?」
と私に聞いたのです。
私は幸せなので、そんなものはないと答えました。
父はホッとした顔をして、
「そう言ってくれて良かったよ。ただ優美はオレのただ1人の子供だから、お前にだけ知る権利があると思うんだ。オレの人生の秘密を知りたいか?」
と尋ねてきました。
私は即答しました、知りたいと!
話してくれるなら、大好きな父の事を知りたかったのです。
父は静かに語り始めました。
それは、何十年も昔の、父の成人式の日でした。
その頃の父は昼夜休まず働いていましたが、久し振りに休みをとって、成人式には出ました。
スーツは近所の人が貸してくれて、式典にはキヨ婆も来てくれました。
旧友にも会えて、楽しいひと時を過ごした後、これまた近所の人の好意で、キヨ婆と2人で夕飯をご馳走になりました。
ご馳走をしてくれた家を出ると、夜なのに何人もの人がウロウロしています。
何があったか尋ねると、言いにくそうにですが、父の両親が賭博場でトラブルを起こしたと教えてくれました。
この頃、2人ともに不摂生が祟って体が弱くなり、大好きなギャンブルも、近くの賭場にしか行けなかったのです。
父はそこの胴元とも仲良くして、両親にお金を貸さないようお願いしていました。
成人式のその日、両親は賭博場で負け、胴元に金を借りようとするも断られ、カッとなって夫婦で胴元を刃物で切りつけて逃げたそうです。
自分のところに連絡が来なかったのは、胴元が父が成人式なのを気にして、まだ言うなと言ってくれていたからです。
すぐに胴元に謝罪に行きました。
切られた傷は浅く、大事には至りませんでしたが、自分に気を遣ってくれた人を両親が害したことに、強い怒りを感じました。
家に帰り、悔しくて1人で号泣しました。
(こんなに頑張っているのに、これからもオレは、あんな親に振り回されるのか……)
絶望した父は、本気で死にたくなったそうです。
その時、キヨ婆が顔を覗かせ、
「優成、願望を叶える強いマジナイを知りたいか?」
と、言いました。
はっとした父に、キヨ婆は続けました。
「自分の命をかけて、願望を叶える秘術がある。願いが大きいほど、命は大きく削られる。それでも良ければ教えてやろう」
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