その時じいさんはたまたま外で用を足していたため、難を逃れる。
それからその黒人兵は何を思ったのか焼却炉背後の黒い煙突のところまで行くと梯子をよじ登りそのてっぺんに仁王立ちすると、銃口を口に咥えて引き金を引いたんだ」
※※※※※※※※※※
そして澁谷が第一記録保管庫に配属され三カ月が経ったある日を境に、突然田中さんが会社に来なくなる。
それはちょうど彼が黒い煙突を見たという日の翌日のことだった。
欠勤は3日続き、心配になった澁谷は同じフロアにある総務部の人事課に行く。
女事務員の座るデスクの傍らに立った澁谷は、田中さんがもう3日間出勤してこないが病気でしょうか?と尋ねた。
すると事務員は彼の顔を見上げると、怪訝な顔で言った。
「あの、、第一記録保管庫付けの社員は現在あなただけなんですが」
「いや、あの、あそこでずっと働いている、、」
しどろもどろになって懸命に説明する澁谷を尻目に事務員は面倒くさげにパソコンを操作すると、
「澁谷さんが配属する前は三人の社員があそこで働いていましたけど、一人はすぐに依願退職、もう一人は体調不良で施設に入院、そしてもう一人は」
「失踪したんでしょう?」
澁谷の言葉に事務員が驚いた顔で「どうしてご存知なんですか?」と言うと、彼は「だって田中さんが言ってたから」と言い残して、その場を立ち去った。
……………
その日澁谷は定時に退社した後、数年ぶりにネオン街に立ち寄り前後不覚になるくらい飲んだ。
※※※※※※※※※※
翌日からも澁谷はがらんとした殺風景な保管庫内に一人、朝からあの退屈な作業を続けていく。
























オカルト的な怖さより普通の人が正気を失って行く様がとても怖い。それが戦時下であれ企業であれ平気で追い詰めて行く人の存在はもっと怖い。
コメントありがとうございます
正に人間の所業こそが恐怖です
━ねこじろう
会社の人達(田中さんを含む)の主人公に対する接し方の違いが緻密に書かれているのが良い!主人公は「訳あり部署」で一人仕事をさせられる孤独感や虚しさ、哀しみを、田中さんとの会話で紛らわしていたのでしょうか。
このお話の田中さんが好きで、時々読みに来ています。総務部資料係の男性は温厚そうですが、本当に主人公に純粋な好感を寄せていたのでしょうか。穿った見方かもしれませんが、小癪な大学の同期が自滅行為をしてくれたので、安堵しているのかもと思いました。