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不思議体験

綿貫 一さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

腕の夢
短編 2024/09/20 22:50 207view

やがて、大きな通りに出た。
乗り捨てられた車が、そこかしこに放置されている。
月光に照らし出された道の先に、すすきの原らしきものが広がっていた。
近づいてよく見るとそれは、長く伸びた、白い、細い――無数の腕だった。

風もないのに、まるで海底の生えるウミユリのように――、

ゆらゆら。
ゆらゆら。

揺れている。

背後にいつの間にか、何体もの腕人間が近づいてきていた。
僕は仕方なく、腕の原に身を投じる。

腕を掻き分け掻き分け進んだ。

顔面を無数の手のひらが撫でてくる。
それらを払いのけ進む。

背後から肩や脚を引っ張られる。
それらを振りほどいてさらに進む。

腕の原を抜けると、道は小高い丘に向かって伸びていた。
丘の上には、最前よりも大きな黄色い月が浮かんでいる。
ブヨブヨした上り坂を難渋しながら登りきると、眼下に廃墟の街並みを一望できた。
街のあちらこちらに、背の高いビルが生えている。
明かりのついていない真っ黒な直方体は、巨大な墓石に見えた。

不意に地鳴りが響き、足元が揺れた。
見えていたビルの一つが、今まさに倒壊しているようだ。
ガラガラと、その身の欠片を地上に降らせている。
それが収まると、ビルはただの直方体から、天に向かって手を伸ばす、巨大な黒い腕にその姿を変えていた。
見ればあちらのビルも、こちらのビルも、すべてが黒い腕に変じていた。

ふと手元に視線を戻すと、今度は僕の右腕が、肘の辺りからかき消えていた。

「ああ――」

空を仰いで、空っぽの声を上げる。
僕の目が、夜空に浮かぶ黄色い濁った月をとらえた。
その月のちょうど真ん中から、何かが降ってきていた。
初めのうち、ただの黒い点にしか見えなかったそれは、見る間に巨大な黒い手のひらとなって、こちらに迫ってくる。
そして終には、夜空をすべて覆い尽くし、地上に降ってきた。

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