葬式ごっこ
投稿者:Mine (24)
子供というのは大人の目線では理解できない不可解な遊びを往々にしてするものだ。
時には自分達ですら何が面白いのか理解してないことさえある。
私と弟がまさしくそうだった。
小学3年生の頃の一時期、2才離れた弟のアキラと”葬式ごっこ”なる不謹慎極まる遊びを親が不在の時やっていた。
自分の部屋で私は仰向けに寝て、胸の上で両手を組む。顔には布をかぶせてその傍らで弟はひざまずき手を合わせて「まーかーはんにゃーはーらーみーたーしーんぎょー」と辿々しく唱えていく。ただそれだけ。もはや遊びとすらいえないかもしれないし弟の方も何故あんな事をしてたか今では意味が分からないそうだ。
でもその当時は幾度となく弟と葬式ごっこをやっていて親には内緒にしてた。
我ながら変わった子供だったとは思うけど、友達付き合いは普通にしていたし、家庭や学校で特に何か問題を起こしたりしたことも無い。
これはそんな私が最近実家に帰省した時の話。
現在私は社会人として独り立ちして、弟は大学4年生になった。
両親と弟が住んでいるのは築15年の分譲マンションの一室。
家族は久しぶりに顔を見せた私を顔を綻ばせて歓迎ししばらくお互いの近況や昔話に花を咲かせ、それから夕飯の買い出しの為に両親二人は車で出かけて行って家には私と弟の二人だけになった。
暫く見ない内に弟は身体も顔もすっかり大人っぽくなっている。
「実家はやっぱ落ち着くねぇ。…あのさ、こうして家に二人だけになるとさ・・・思い出さない?昔やってたアレ」
お互い無言だったから何か話題がないかと私がそう水を向けると、リビングのソファの上で弟は手にしたスマホから顔を上げずに
「アレってなんだよ」と面倒くさそうに返事をする。
「ほらアレだよアキラ・・・葬式ごっこ」
私はかつて二人ではまっていたあの遊びについて一通り語って聞かせた。
ちなみに当時はこのマンションとは違う家に住んでいて、そこは年季の入った一軒家だった。家は色々とガタが来ていたし、父親の仕事の都合もあり私が小学4年に上がるタイミングで家を手放しこのマンションに越してきたのだ。
私が話し終えると弟は笑いながら、
「あーあれか。覚えてるよあのことは。ぶっちゃけ今聞かされるまで完全に忘れてたけどさ。うん、ちゃんと覚えてるよ。懐かしいな。今思えば何だったんだろうなあれ」
実は私も今まで完全に記憶の底に沈んでいたのだがどういうわけか今日弟の顔を見てふっと思い出したのだ。けどそれは黙っておく。
笑顔だった弟は今度は眉間にしわを寄せて難しい顔になっていた。
「でもさ・・・なんか違うんだよ。姉ちゃんの話と俺の記憶が」
弟曰く、いつも遺体の役をやっていたのは自分の方で、私はお経を唱える役目だったという。
そんなはずは無いのに。
「え?違う違う。お経はいつもアキラが唱えてたじゃん。お経の役なんか私一度もやってないよ」
「いやいや、絶対おかしいって。俺だってお経の役なんか一度もやってないし。賭けてもいい。いつも姉ちゃんは木魚を叩くふりをしながらお経を上げてて、俺はその前で死んだふりしてたんだぜ?」
弟は私をからかっているのかと思ったけど、その真剣な眼差し見る限りどうやら本気らしい。もとよりアキラはこういう冗談は言わない質なのだ。
「えー、絶対変だよ。いつもアキラの方から誘ってきて私の部屋に行ってさ・・・」
「そう、それもおかしいんだって。場所はいつも俺の部屋だったよ。姉ちゃんの部屋じゃないし、大体いつも葬式ごっこを誘ってきたのは姉ちゃんだろ?俺から誘ったことはないぞ絶対」
そういえば「サキュバスやインキュバスは家族に化けて現れ、被害者と強制的に性交する」という話が有るね。
それが何を意味しているのかを考えると闇が深い。