S村からの電話
投稿者:ねこじろう (147)
ただ健康器具というと聞こえは言いが、
例えば『被ると認知症が劇的に改善する魔法のヘッドギア』だとか、
『膝に装着するだけで明日からアスリートなみに走れる奇跡のアタッチメント』だとか、
『一粒飲むだけで二十歳の頃の記憶力に戻れる脅威のサプリ』等々、
その中身はかなり胡散臭かった」
「なんだそれ?今の時代には考えられないような、怪しい商品だな」
俺の言葉に田嶋は大きく頷くと続ける。
「まだ買い手のための法律なんかがなかった時代だったからな。
まあ売ったもん勝ちという感じだった。
体育館くらいあるフロアには整然とデスクが並んでてな、社員たちは皆朝から晩まで黙々とテレアポに勤しんでたよ。
受話器を握った状態のままガムテープで固定しているようなやつなんかもいた。
そして約束のとれた者は地図で住所を調べてから意気揚々と出掛けていき、詐欺まがいの美辞麗句を並べたてて高額な健康器具を買わせていたんだ」
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「そんな強引なやり方をしていたものだから、客からのクレームも多かった。
例えばこんなことは日常茶飯事だった。
朝からテレアポに勤しんでいると、事務所入口横手にある応接室のドアが開くんだ。
隙間から上司の村山課長が顔を出し『田嶋く~ん、ちょっと』とデスクに座る俺の背中に声をかける。
俺は内心またかよとボヤキながら受話器を置き立ち上がると『はい?』と返事をして、応接室へと歩いた。
室に入って正面には仰々しい大理石のテーブルが置かれており、それを挟んで右手には二人の者が、左手にはスーツ姿の村山課長が座っている。
当時50歳のベテラン社員だった。
俺は『失礼します』と言いながら村山さんの隣に座った。
俺たちの正面には、仏頂面で腕組みする作業着姿の大柄の中年男性と地味なブラウスの年老いた女性が座っている。
女性は当時の俺にとっては見慣れたモノを頭に被っていた。
それは一見するとラグビー選手が被ってるような試合用のヘッドギアのようにも見える。
そしてその表面には大小いくつかの液晶板や色とりどりのコードや電極が絡み合っていた。
すると突然女性が虚ろな目で前に座る俺を指差し、
『まさし~ごらんよ、キリストさんがこんなところにもいらっしゃる』とボソリと呟くと、まじまじと俺の顔を見ながら手を合わせ『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』とお経を唱えだす。
怖かったですヽ༼⁰o⁰;༽ノ
お祓いしてもらえばいいのに。
コメントありがとうございます。
━ねこじろう