S村からの電話
投稿者:ねこじろう (147)
「大阪府M市郊外にあるとある精神医療施設なんだけどさ。
朝方から新幹線で新大阪まで行ってそこから地下鉄路線バスと乗り継ぎ、山肌を削って作られた蔦の絡まる白亜の建物に着いた時、太陽はもうかなり高いところにあったな。
施設1階奥の応接室に通された俺が窓際から木立を眺めていると、入口ドアが開き女性看護師が男性を伴い入ってきた。
男性は細身に薄いブルーのワンピース姿で年齢は40代半ばくらい。
肩まで伸ばした髪にはチラチラ白髪が覗き頬は痩けシルバーのピアスをしていて、かつての面影はあった。
俺は男性に向かって『久しぶりだな仲谷』と笑顔で声をかける。
だが男性は無言なまま虚ろな目で俯くと、看護師に誘導され俺の正面に座った。
するととたんに彼は顔を上げてから俺の顔を血走った目で見据えると、堰を切ったかのように喋りだす。
『ほらあだからあ言ったでしょう?
俺はウソは言わないよ、
これさえ付けるとばあちゃんの膝ばっちり治るんだから、
いいから一度試してごらんよ』
唖然とする俺の斜め向かいに立つ看護師が
『ここに入所してからもう20年以上経ちますが、ずっとこんな感じです。
こっちが止めてやらないと、延々話し続けます。』
とボソリと呟きチラリと俺の顔を見ると、悲しげに微笑んだんだ」
「何だよ、その人、仕事のストレスから鬱にでもなったのか?」
俺の質問に田嶋はゆっくり首を振ると語りだした。
※※※※※※※※※※
「俺がこっちの高校卒業してから大阪の会社に就職した時代というのは、まだ携帯が普及してない頃だった。
新卒で就職した会社『シニアライフ』の事務所は、大阪府M市南部繁華街の外れにあるビル4階のワンフロアにあった。
元々そのビルはバブルの頃に隆盛を極めたとある不動産ディベロッパーが建てた10階建ての商業ビルなのだが、令和の今は見る影もなく老朽化が進み空き店舗だらけになっていたよ。
会社の仕事内容はいたって単純で、リストに並ぶ電話番号に片っ端から電話を掛けていき出た人に商品のピーアールをする。
そして興味を持った人のところに出向き契約させるというもので、全くもって体育会系の昔ながらの営業手法だった。
扱っている商品は、お年寄り用の健康器具やサプリ。
怖かったですヽ༼⁰o⁰;༽ノ
お祓いしてもらえばいいのに。
コメントありがとうございます。
━ねこじろう