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呪い・祟り

ねこじろうさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

S村からの電話
長編 2024/09/01 07:58 9,554view
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『いやここはアーメンだろ』と心で突っ込みながらも少しびびる俺。

すると老婆の隣に座る男性が憎々しげに顔を歪め村山さんと俺の顔を交互に睨み、
『うちに訪ねてきたお宅の会社のもんがな、被るとお袋のボケが治るっていうもんだから車一台分くらいの大金はたいて買ったんだけどな、見ての通りお袋ちっとも変わらねえじゃねえか!』
と怒鳴るとテーブルをどんと叩いた。

男性の前に置かれたお茶の入った湯飲みが倒れる。

『そんなこと言われましても商品の効果には個人差がありますからね、もう少しお母様の様子を暖かく見守っていただけませんか?』

いつもの口調でのらりくらり返す村山課長に男は切れたのか、いきなり立ち上がると課長につかみかかった。

懸命に男をなだめる俺。

傍らに座る老婆は少女のように手を叩きはしゃいでいる。

俺はこんな狂った会社の狂った日常に、ほとほとうんざりしていた。

実際会社の扱う商品に誇りを持てず詐欺まがいの商売のやり方に罪悪感を感じていて仕事に集中出来ず、営業成績もあまり芳しくなかった」

「俺ならそんな会社辞めてしまうけどな」

俺がそう言うと田嶋は軽くため息をついて、
「お前みたいな大卒のエリートと違って、高卒で技術や資格もない俺みたいな男は、こんなブラックな会社で頑張るしかなかったんだよ」と言うと、また続ける。

※※※※※※※※※※

「でな男性と老婆が立ち去った後、村山さんが深刻な様子で俺にこんなことを尋ねるんだ。

『仲谷だが昨晩営業に出たきり、まだ社に戻ってきてないんだ。お前何か知らないか? 』

仲谷というのは入社してまだ日の浅い新人で、明るい茶髪にシルバーのピアスをした今風の若い男で、フットワークと口の軽さだけが取り柄のような奴だった。

村山さんの質問で、俺の脳内にその日の前日夜の事務所の様子が甦ってきた。

広い事務所には未だアポの取れない者が5、6人居残りテレアポに勤しんでいる。

彼らの顔には一種の悲壮感めいたものさえ漂っていた。

というのは会社の営業システムはいわゆる完全歩合制で、
成約一件につき売上の10パーセントがもらえる仕組みだったからだ。

つまりその月の成約がゼロの者の月給は、雀の涙くらいの基本給しかなかった。

俺の斜め向かいに座った仲谷は受話器を耳にあて、いつもの軽い調子で喋っている。

『だからあ絶対大丈夫ですって、嘘だと思うのなら100万円掛けてもいいです』とか、
『多分弊社のアタッチメントを付けると、もう翌日からマラソンにも出場出来るくらいになれますよ』とか、
『弊社のサプリを飲んだ80歳のじい様が、そらで円周率を100桁まで言えたんです』とか、
聞いていてこっちが気恥ずかしくなるほどの眉唾ものの内容だ。

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