彼女がいつも笑顔の理由

私の友人であるNさんは、いつも笑顔です。でも、私にはそれが不思議でした。なぜなら、彼女のご主人は女ぐせが悪くて、最近ではマッチングアプリで知り合ったCという女性と、毎日メールのやり取りをしているそうです。

信じられないのが、ご主人はそのことを隠そうとしないのです。Nさんがいる前でも、平気でのろけるんです。

私も、相手の女性の写真を見せてもらいました。と、いっても唇と下顎が写っているぐらいの写真で、目元は帽子で隠れていました。唇がふっくらしていて、とてもセクシーな感じでした。

「可愛いだろ？俺のイチオシなんだ」

と、言われてもどう対応したらいいのか、全くわかりませんでした。

あるとき、私はNさんにどうして平気なのかと聞いたんです。

普通、目の前であんなに言われたら、私だったら平気ではいられないと思います。ところが、Nさんは楽しそうに笑うんです。そして、ある秘密を教えてくれました。それは、あまりにもの驚きでした。

「あのね。Cは私なのよ」

最初は、何を言われているのかわかりませんでした。すると、Nさんは帽子を目深に被って、真っ赤なリップを塗りました。

そこには、写真で見たCがいたのです。

「あの人、バカでしょ？全然私だって気づかないのよ」

Nさんは笑いながら、もう半年もメッセージをやり取りしたり、電話で話しても気づかないのだと言うのです。

「私の悪口のオンパレードだったわ。ブスだとか、家事ができないとか、浪費家だとか嘘八百が書いてあったわ」

Nさんは、笑顔で話していましたが、その眉間には深いシワが刻まれていました。

「あの人、Cにプロポーズしたの。許せないのは、私の時と全く同じだったこと」

彼女は、お茶うけの煎餅を音を立てて食べながら、キッと前を見据えて言いました。

「老後に、あの人の世話をする時が楽しみだわ」

彼女の、低い声に背筋がザワザワとしてきました。あまりにも怖すぎます。

ご主人の老後が、気になって仕方がありません。