助けを求める手
投稿者:皐月 (31)
かなり前、実家にいたころのことです。
実家の前にはアパートがありました。斜面にあるそのアパートは1階が店舗で、2階と3階がアパートになっていました。ちょうど実家の玄関と2階のアパートの玄関が向かい合わせになるように立っていました。ある時60代くらいの男性がちょうど実家の玄関の真向かいに越してきました。その方は近所のマンションの管理人をしているとかで、とても気さくで子供もかわいがってくれました。
2~3年くらいたったころからその方の様子が変わってきました。管理人もやめて、アパートの1階にある飲み屋に通い詰めているようでした。いつも酔いつぶれているようで、昼間はほとんど見かけなくなり、ほとんど交流もなくなりました。
それからしばらくして、ある朝方、変な夢を見ました。
私はアパートに枕を向けるように寝ていましたが、ある日白い影の男性に腕を引っ張られる夢を見ました。夢なのか、いわゆる金縛りのようなものなのかわかりませんが、すごくしつこくて、両手を上に引っ張られ、離してといっても話してくれず「離して」と大声で叫んだ自分の声で目が覚めました。
その後はなんだか怖くて眠ることができませんでした。
その数日後、休日に外出から帰ると、ひどい異臭がしてアパートの前に警官がいました。母に「このにおい何?」と聞くと、アパートの中でなくなっていた人がいたとのことでした。異臭がしたためほかの住人から連絡があり、管理人がドアを開けたところ玄関先で手を外に向かって伸ばした状態で亡くなっていたそうです。すでに腐敗が始まっていて、それがそのひどい異臭の正体でした。そして亡くなっていたのは、例の60代の男性でした。
その時私は、あの夢がその方が助けを求めるものだったのだと気づきました。
「助けて」、「気づいて」、と私の手を引っ張っていたのだと気づいたのです。
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