あの夏への扉
投稿者:綿貫 一 (31)
肩までの黒髪。
好奇心に溢れたくりくりとした瞳。
白いノースリーブのワンピース。
そして、彼女の頭には不釣り合いに大きな麦わら帽子を僕から受け取る、白く冷たい手。
一瞬で脳内に、生涯刻み込まれた、美しい光景。
『ありがとう』
『……どういたしまして』
僕が、初めて恋の味を知った夏。
彼女――紗雪との出逢いが、その夏を特別なものに変えたのだった。
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「これでよし!
さ、先生、どこに行こっか。小学校ならこっちだし、商店街ならこっちだよ」
店の戸締りを確認し、ガラス戸に「本日閉店」のプレートを掛けた希が、くるりとこちらを振り返る。
私は本当は教師ではないのだが、この際どうでもいいか。
「そっちはもう行ったことがあるからいいよ。
どうせなら、川とか森とか、穴場のような場所を教えてもらいたいね」
人目について、不審な男が小さな女の子を連れていた、などと噂されたくはない。
「穴場かー。じゃあ魚がいっぱい捕れる秘密の場所、先生に特別に教えてあげる!」
ついてきて!と云って、希は駆け出す。
私はその後ろ姿を見つめながら、再び過去に思いを馳せた。
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『あなた、この辺りじゃ見ない顔だね。引っ越してきたの? 名前は?』
『洋だよ。
人に名前を尋ねるなら、自分からまず名乗れば? ……別にいいけど』
少女は笑いながら、紗雪と名乗った。
『そっか、お盆で田舎にねー。
じゃあ洋ちゃん、私、此処のことよく知ってるから、色々案内してあげるよ』
【吉良吉影!雪女に会う~少年時代 特別編~①】
何となくこれを思ったw