三面鏡

いつもと変わらぬ様子の彼女の姿に少し安堵しながらも、あのときの豹変ぶりも同時に思い出され、私はどんな感じで挨拶しようか迷っていると

「あ、由紀さん」

私に気づくや否や、彼女は駆け寄ってきました。

「昨日は本当に申し訳ありませんでした！！！」

頭を深々と下げて私に謝罪してきました。

「無断欠勤だけじゃなくて、由紀さんに対して本当に失礼な態度取ってしまって･･･。言い訳するわけじゃないけど、嫌なことが続いちゃってそれで私･･･私･･･」

涙声になりながら必死に謝り続ける彼女を見て、いつものスカちゃんだと安心して

「いいのいいの！あんまり謝らないで！そんなときもあるよスカちゃん！」

「でも･･･」

顔を上げた彼女は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。

「ほら！顔拭いて！お化粧台無しになっちゃうよ。そんな顔、お客様に見せられないでしょ？私、気にしてないから･･･ね？」

「由紀さぁん･･･」

彼女を宥めつつ、開店準備に取り掛かりました。スカちゃんは泣きながらも一生懸命に準備をしていました。

（良かった。いつものスカちゃんだ･･･）

晴れ晴れとした気持ちで、開店を迎えました。

「いらっしゃいませ！」

朝から予約のお客様の対応に追われながらも、充実した時間を過ごしていました。私もスカちゃんも忙しく仕事をこなしていました。スカちゃんも徐々にですが指名されることも多くなってきて、一生懸命にカットする彼女の様子を見ていたときでした。ふとあることに気づいたのです。

「あれ？スカちゃんってさ、左利きだったっけ？」

その一言に彼女は手を止めて、私に振り返りながら

「あれ気づきました？･･･私、昨日から左利きになったんですよ」

悍ましいほどの悪意を満ちた笑顔で私を見つめてそう答えました。私はその一言に何も答えることができないまま、ただその場に立ち尽くしていました･･･。