「眠いなあ。家に帰ったら少し寝ようかな。でもお腹空いてるから眠れないかも」
などと思いながら満男がいつもの住宅街の路地を歩いていると
「ぼうやぼうや」
聞き覚えのある声にドキリとし、彼はそちらに目をやる。
昨晩のあの女がまた赤茶けた金属の門の隙間から覗いていた。
まずいと思った満男は無視しながら通りすぎようとする。
するといきなり香ばしいカレーの香りが鼻腔内に飛び込んできて思わず彼は立ち止まった。
両手に鍋を持った女が
「ぼうや、お腹空いてるんでしょ。
カレー食べない?」と言って、またあのミジンコの目を細めて微笑む。
満男は心とは裏腹な態度で断ったが、結局また女の半ば強引な誘いに負けて彼女の家の食卓テーブルに座ることになった。
そしてその日のテーブルには、女の隣に彼女の息子らしき男の子が一人座っていた。
今の時代にはあまり見ない絣柄の甚兵衛を羽織りガリガリに痩せている。
顔色は青白くて頬はこけ手足は棒のようにか細い。
歳は満男と同じくらいだ。
どうやら彼は手が使えないのか、女がスプーンで彼の口にカレーを運んでいた。
結局満男はまた女の家に立ち寄り、ご飯までごちそうになった。
そして彼が女の家を引き取る時、彼女はこんなことを言う。
「そんなにお母さんが嫌いなんだったら、
もうおばちゃんの息子になりなさいよ、わたしの息子も喜ぶし」
女のとんでもない提案にも満男は満更でもない気持ちになっていた。
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