客を乗せた時の話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
「おつりは結構ですから。」
老婆はそう言って家の中に戻ると、玄関の灯も消えた。
と、叔父はどこかで聞いたことがあるような、よくあるような怪談を話してくれた。
叔父は怖い話をリクエストした僕を楽しませようとしてくれたのだろう。
しかし正直、実体験や仲間の人の体験談を聞きたかったから、少し拍子抜けしてしまった。
そんな話なら聞いたことがあるよ、と言おうかとも思っていると
「これには続きがあるんだ。」
「え?どういう事?」
叔父はその続きを話し始めた。
「その夫婦は詐欺だったかな、結局捕まったんだ。」
「何それ。」
「夫婦は同じような手口で無賃乗車に何回か成功したんだ。ところがだ。偶然同じ運転手のタクシーを使ってしまったから通報されたんだ。」
「無賃乗車なんて、1回でもダメなんじゃない?」
「そうなんだけど、そこは運転手のメーターの操作ミスって事で、まあ、自腹で払ったみたいなもんだな。」
「その夫婦が捕まったのはいいとして、赤ちゃんはどうなったの?」
「それがさ、夫婦には子供なんていなかったんだ。抱っこしていたのは人形だろうな。運転手から同情されるように小道具としてな。」
「それじゃ、おばあさんは?」
「…それがな、その家には、その夫婦しか住んでなかった。聞いた話によると、家には仏壇があって、誰かの遺影があったらしい。」
「結局、おばあさんはどこの誰なの?」
「それが未だにわからん。」
今までの話が、一体どういう事なのか、僕と叔父はしばらく考えて沈黙していた。
「ああ、そうそう、今思い出した。」
叔父が突然言った。
「思い出したって何を?」
「お金が入っていた封筒には『御霊前』と書いてあったんだ。」
それからずいぶん経った今でも、そのおばあさんの正体は結局わからないままだそうだ。
なんとなく面白い。
オチが怖い