【微睡みの泉】というサイト
投稿者:ねこじろう (147)
彼は大学に出かける準備をすると、ここ最近感じたことのないくらいの高揚感に包まれたまま足取り軽くアパートを出た。
地下鉄で移動している間もふつふつと沸き上がる楽しい気分は消えず、にやけているのを他の乗客にばれないようにするのが大変だった。
その日彼は午前中に2コマ講義を受けたのだが、まるで海綿が水を吸い込むように脳ミソに知識が浸透していくのを感じる。
昼になってもその沸き上がる高揚感は止まらず、午後からも一コマ講義を受けその勢いのまま、コンビニのバイトに入る。
彼はレジ打ちもリズミカルに、ありがとうございますの声もいつもの倍くらい元気よく発声し客に気持ち悪がられていた。
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その日の晩もSはあの「微睡みの泉」を聴きながら深い眠りにつく。
そしてその日彼は奇妙な夢を見た。
─額にヒンヤリとした空気を感じる、、、
正面に目をやると、まるで碁盤の目のように整然とした古い町並みが広がっている。
それはまるで中世ヨーロッパの商業都市のような重厚な風情を感じさせる光景。
彼方には一服の墨絵のようなぼやけた山脈が連なっている。
どうやら俺はどこかの古城塔屋の屋上に立っているようだ。
頭部には立派な王冠を被り繊細な刺繡を施した豪華な赤いケープを纏っている。
ふと真下に視線を移すと、蟻の大群のように蠢く無数の者たちが熱狂しながら両手を差し出しているのが見えた。
全ての者たちが懸命に俺の名前を呼んでいる。
彼らはどうやら本気で俺を熱望しているようだ。
聴衆たちの切な願いに答えてやりたい、、、
彼らと一体になりたい、、、
その時俺は心の底からそう思った。
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それから数日が経った、夏休み前日の週末のこと。
その日Sは午後から大学に行くと、学生食堂でN美と一緒に昼食をとっていた。
テレビではまた某県のとある繁華街のビルで飛び降りがあったことをお昼のニュースが報じていたのだがSは全く関心を示すことなく、ただひたすら楽し気に食事をしていた。
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