古賀様と【忌蛇】
投稿者:ねこじろう (147)
等々。
私がそんな率直な質問をすると、決まって両親は険しい顔になり「そんな恐れ多いこと聞くものじゃあない。あの方はそれはそれは尊い方なんだから」と煙に巻かれるような返事をしたものでした。
ただ一度だけ酔った父が私と二人だけになった機会に、話してくれたことがあります。
「あれはまだお前が母ちゃんのお腹の中におる頃のことだった。
ちょうど春先の頃で、山菜でも捕ろうと朝から裏山に分け入った。
昼前くらいにはバケツ一杯くらいになった蕨(わらび)の収穫に満足しとった時だ。
ふくらはぎ辺りにチクリと痛みが走ったんだが、まあダニにでも食われたんだろと鷹をくくっておった。
それからもしばらく蕨捕りに夢中になっておると、急に激しく右足が痛み出したんだ。
そりゃもう酷い痛みで、思わずズボンの裾を捲り見ると膝から下が紫色に腫れ上がっとる。
─しまった!マムシだ、、、
と思った時はもう遅かった。
その時はもう頭の中が沸騰したようにカッカとして心臓はドキドキしだしてな終いには立っておられなくなって、その場に倒れこんだ。
声もまともに出らんし、この時はさすがに俺もこのまま死ぬんだと覚悟までしたな。
それから仰向けのまましばらく朦朧としとったら、突然誰かが俺の顔を覗きこんだ。
誰だ?もうお迎えか?と大きく瞳を開いたら、それが古賀様だった。
修行中の山法師のような白装束の古賀様はパンパンに膨れ上がったわしの右足の傷口にいきなり自分の口を付けると、なんとちゅうちゅうと吸いだしおった。
それからあらかた吸い出しを終えた古賀様は、今度は一心不乱に祈祷を始めた。
唖然としてただされるがままにしとったらな、信じられんことに意識が戻って最後は何とか立ち上がれるようにまでなった。
俺は丁重に礼をして古賀様を家に招くと、詫びの印に酒と食事をふるまった。
そして本人といろいろ話しておると自分はある宗教の開祖で今は特に居を定めずあちこち放浪しているということだったから、だったらうちで良かったらぜひ住まいにお使い下さいとお願いしたんだ」
それ以来古賀様はうちに住み着くようになったいうことでした。
二階の奥の仏間を居とした古賀様は最初に父にこう言ったそうです。
「あなたの家系は代々【忌蛇(いみへび)】という蛇の怨霊に祟られておる。
恐らくあなたの何代か前のご先祖様が、裏山を住処にする【忌蛇】の化身である蛇に対して何か悪さをしたのであろう。そうであるからこれからも蛇にまつわる祟りごとがこの家には起こるであろう」
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古賀さまこそが((( ;゚Д゚)))
普通の一家がカルト宗教に落ちていく話です
─ねこじろう
解説ありがとございます。カルト宗教がらみのヒトコワ話ですが、心霊的な要素も加味されていて、不気味な怖さにゾクゾクしました。グロテスクなだけではなく、妙にエロティックな雰囲気を醸し出しているところも、カルト宗教らしいですね。一家が崩壊していく様、絶望的なラストに思わず声を出してしまいました。
古賀様の存在が最後まであやふやで不気味な感じを持っていただけたら、作品の目論見としては成功としました。
─ねこじろう