僕は笑ってないよ

その時は嬉しかったですねぇ。

それで車に近づいて、窓ガラスを叩いたんですよ。

でもね、酷いことに車は私を置いて発進してしまったんです。

もちろんそのことにも落胆したんですが、

それよりも嫌だったことはですね、

私が助けを訴えているのに運転手は無表情にしてるし、同乗者はゲラゲラ笑っているしで……なんだか人間って怖いなぁと思いましたよ」

……ここで僕はテレビを消した。

部屋に沈黙が流れる。

「あのさぁ……」

「くそがああああああ」

いきなり友人は発狂しだした。そして、先程まで激賞していたおじさんの手形をゴミ箱に投げつけた。

さらにベッドに飛び込み、枕に顔を押しつけて足をバタバタさせている。

余程に恥ずかしいのだろう。

これは、いけない。

友人としてフォローしなければ。

「大事なことはね　心の目で見るんだよ」

僕はそう言い残して友人宅を出た。

いやぁ、今日はいい天気だ。

帰りにバッティングセンターでも寄って帰ろうか。

それにしても

『……同乗者はゲラゲラ笑っているしで……』

あいつは車内側に手形がないかも探せば良かったのになぁ……