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心霊

バクシマさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

僕は笑ってないよ
長編 2024/02/06 23:54 6,224view
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そして車はトンネルを走り抜けて、やがて、ひらけたところに停車した。

車外に出た僕達は、揃って煙草をふかした。

僕は先程の怪異との遭遇を思い返し、友人に発進を遅らせた理由を問い詰めた。

友人は応える。

「いや、別に俺は単なる心霊探訪をしにきたわけじゃないからな?」

「え?」

「これを見てくれ」

友人は車の窓ガラスを指差す。

そこには、幽霊によってつけられた手形がびっしりついていた。

まさに怪奇現象だ。怪異に出くわした証拠。

すると友人は、おもむろに粉とハケを取り出すや、パフパフと窓ガラスに粉をつけ、そしてハケでその粉を丁寧に落としていく。

これ、見たことあるぞ。

刑事ドラマの鑑識役が指紋採取をするときのやつだ。

そして友人は、手形に妙な紙を押しつけ、すぐに剥がした。

……その紙には手形がしっかり転写されていた。

友人はそれをまじまじと眺め、にんまりと愉悦の表情を浮かべた。「え、なにしてんの」

「これが、俺の趣味なんだよ。コレクションさ。車で心霊スポットに行って幽霊の手形を採集するんだ」

「ほう……度し難いほどにクレイジーだね。それはクヌギの木に蜂蜜塗ってクワガタを採集するみたいな感じ?」

「ああ、それに近いかもな。でも俺の趣味の方が高尚だな」

趣味の貴賤はおいといて、マイナーさと狂人さでは彼に軍配があがるだろう。

「これのどこが高尚なの?」

失礼な質問ではあるが気になるところだ。友人は気を悪くするそぶりもせずに応えてくれた。

「絵画の価値が最も上がるのは、どういう時だと思う?」

「そうだなあ……作品が受賞された時かな」

「確かにそれでも価値は上がるな。しかし正解は、その作者が死んだときだ。もう二度と新たな作品が生まれないということが自明なとき、その作者の絵画は高騰するんだ」

「はあ……」

僕は美術の分野には疎いが、その法則は友人の思い込みの可能性は多分にありそうだ。

しかし、友人は講釈を続ける。

「翻ってこの幽霊の手形はどうだい。すでに死んでいるはずの人物の手形だ。この価値は計り知れないぞ。いわばあの世の芸術家が現世に生んだ、奇跡の作品なんだ」

「作品って大袈裟な……ただの手形じゃあないか」

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