くらやみ様
投稿者:綿貫 一 (31)
僕は、夢の中の彼女に、あえてオマジナイのことは伏せていました。
そして、現実の彼女がどういう状況であるのかも。
夢の中の彼女はひとり、あの白い部屋の中にいます。
僕以外に話し相手はいません。
僕が目覚めている間は、彼女は完全にひとりぼっちです。
彼女の僕に対する依存度は、どんどん上がっていきました。
今ではすっかり、僕に頼りきりになっていました。
夢の中で、僕は彼女を手に入れたのです。
………
………
………
そんな状況がひと月ほど続いたある日のこと。
夢の中に異変が起きました。
真っ白な部屋の、ひとつだけある木製の扉から、あの黒いモヤモヤが溢れてきたのです。
おそらく、最初の夜に彼女の部屋の扉から漏れ出していたそれは、いまや隣の部屋を覆い尽くし、こちらまで押し寄せてきたのでしょう。
彼女はその黒いモヤモヤをとても恐れました。
そして、僕に寄り添い助けを求めました。
しかし僕にはどうしてよいかわかりません。
僕の部屋にはそのドアひとつしかないのですから、どこかに逃げることも隠れることもできません。
僕は焦りました。
あれは、あの黒いモヤモヤは、おそらく「くらやみ様」です。
彼女があれほど恐れるものです。
なにかとても良くないものなのはわかります。
あれがこの部屋に入ってきたら。
この部屋を満たしてしまったら。
僕らは一体どうなってしまうのでしょう。
焦る僕の耳に、声が聞こえてきました。
低い低い、つぶやくような声です。
声はドアの向こうから聞こえます。
――川野麻衣……
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