ケータイ忘れただけなのに
投稿者:綿貫 一 (31)
結局、目的の駅に着いたのは、予定時間を30分ほど過ぎた頃だった。
いっこうに前に進まない電車の中で、気持ちばかりがジリジリと焦って、何度も彼に連絡を取りたくなった。その度に『そうだ、ケータイ忘れたんだった』と思い出して、の繰り返し。
ようやく駅に着いた時には、私はすっかりヘトヘトになっていた。
ターミナルであるその駅は、休日も混み合っていた。
私はヨロヨロと改札を出て、待ち合わせ場所の、駅前ロータリーにある時計台を目指す。
と、まさにその時計台の足元に、人だかりができていた。
なんだろう? 有名人でも来ているのかな?
テレビの取材? 凄腕の路上パフォーマーとか?
いやしかし、それにしては人々の表情が暗い。
人垣の隙間から、ちらりと覗いた警察官の姿。
遠くから聞こえてくる、救急車のサイレン音。
心がざわめく。
不安が、墨汁のように胸の中を黒く染めていく。
確かめたくないが、確かめずにはいられない。
私は、おそるおそる人だかりに近付くと、適当な背中に声をかけた。
「あの……何があったんですか?」
振り返った年配の女性が、ひきつった顔で応える。
「事故ですって。車が、すごいスピードで歩道に突っ込んできて……。
その場にいた何人かが巻き込まれたみたい。ほら、車もグシャグシャで――」
彼女の顔の奥、歩道に乗り上げ、時計台に衝突したまま止まっている、白い軽自動車が見えた。
車の前方はひしゃげ、フロントガラスは割れて、破片がアスファルトに散らばっている。
路上に残された、真新しい血だまり。
地面に寝そべったまま、虚ろな目で空を見上げている、人気アニメのキャラクターのぬいぐるみ。
そして、見覚えのある黒ぶち眼鏡――。
まさか。
まさかまさかまさか。
不意に、小学生の頃、全校集会で立ったまま校長先生の長話を聞いていて、貧血を起こした時の感覚がよみがえった。
視界がキラキラまぶしくなって、眩暈と吐き気で立っていられなくなる。
とにかく彼に連絡を――、
ああそうだ。ケータイ、ないんだった――。
このオマージュを理解できる人はオッサンだと思う(笑)
はい、自分もですよ
2006年くらいにアニメ見てた人には懐かしい名前
((( ;゚Д゚)))なるほど