適切な処置
投稿者:ねこじろう (147)
─男の声だ!うーん、年は50くらいか……。
「今日でもう2週間になるが、この人の場合、この状態では意識を取り戻すことはないだろう」
─こいつは何を言ってるんだ?
俺はちゃんと起きてるぞ!聞こえてるぞ!
懸命に訴えるのだが届かない。
俺は言葉も失ったのか?
「ところでうちの病院には、何名収容されたんだ?」
─『収容』?
どういうことだ?
そうだ、明子はどうなったんだ?
この病棟にいるのか?
頼む、明子に会わせてくれ!
「えーと約50名ですが、日に日に増え続けているみたいです」
─若い女の声だ!
右側から聞こえる。
「何せ次から次に軍のヘリがやってきて都内にある全ての病院に傷病者を運び込んできているようでなんですが、病院は既にほぼ満床状態のようでして、どこも医療崩壊になりつつある状況みたいなんです。
それで今朝、役人の方々が来られて」
「分かってる、『適切な処置』だろう。
医師の立場からすると、とんでもないことだが、こういう事態だからやむを得んな」
─ん?『適切な処置』?
どういうことだ?
俺は全神経を耳に集中する。
「でも先生、この方はまだ生きています!」
「分かってる分かってるが、このような異常事態の場合は、より可能性のある人を救うのが道理なんだよ。
『緊急避難』という考え方、君も知ってるだろう?
不謹慎だが、このようなただ息をしているだけの、つまり、その、、、『肉の塊』とかに構っているくらいなら、、、」
─『肉の塊』だと?
俺は今『肉の塊』なのか?
年配の男と若い女性の会話は俺を挟んで続いた。
本当に文章がお上手で目が離せなくました。
ありがとうございます
─ねこじろう