戦友のいたずら
投稿者:海堂 いなほ (14)
「儂も、後方にいたが、まさかこんなひどい状態だとは思わなかったよ。」
日中は、敵の監視が厳しいので、夜が選ばれて、負傷兵の捜索に向かった。森の中は、それは、ひどいものだったと祖父は言っていた。
「死体、死体、死体、しかも日本兵ばかり、ちっとも、イギリスさんはいなかった。」
何日も何日も生きた人を探す、祖父は嫌になったが、それでも小隊長としての任務は全うしなければいけない。祖父は、3日も過ぎると人の心がなくるものだと言っていた。死体を見ても死臭をかいでも反応すらしなくなっていた。
「儂は、死んだと思ってた。何も感じない世界に残された気分だった。でもな、儂は、小隊長だったから、みんなを励まさなかきゃいけなかったんよ。皆、ゲーゲーはきながら仕事をしとったな。」
負傷者捜索を続けていたが、祖父の小隊が森の一番奥まで偵察に向かう日がやってきた。自分の前番の小隊から話を聞くと幽霊の話を聞いた。最初は、達の悪冗談かと思って、聞き流していたが、どうやら、大真面目で話をしていた。
「助けてくれ、ここにいる。日本に帰りたい、母さん、母さん」
と夜間森を歩いているとどこからともなく聞こえてくるらしい。その声のする方向に向かうと、死んでいることが一目でわかる日本兵がいるという話だった。
祖父の輪番となり、祖父の小隊は、夜の森に入っていった。
確かに、声のようなものは聞こえるが、それでも行くしかない。死体を見つけては、小さな肩身を取って雑のう(バック)に突っ込み、また、次の死体に向かう。この時、祖父の不幸が始まったと言っていい。祖父の小隊が森に入っている間に祖父の連隊(連隊>大隊>中隊>小隊)に撤退命令が下ったのだ。この撤退命令には裏があり、イギリス軍の攻撃の情報を得たため、速やかに後退するようにとの意図であった。困ったのは連隊長である。すでに、小隊が負傷者捜索に向かっている。無線は傍受の危険がある。かといって、人を向かわせても場所がつかめない。連隊長は、少数の連絡要員を残し、連隊の撤退を指示した。
撤退とイギリス軍の侵攻を知らない、祖父達は、夜の森を彷徨っていた。そして、祖父の小隊めがけて、一発のりゅう弾砲が飛び込んできた。
祖父は、最初何が何だかわからず、とにかく吹き飛ばされたのと、強烈な全身の痛みを感じ、そのまま、意識を失った。
次に目を覚ますと森の中で泥まみれになりながら倒れていた。さらに右足が強烈に痛む。足を見ると、右足首に大きな傷があるが、祖父はその時安堵したという。痛みで生きていることに気が付いたのだ。祖父は、小隊の様子が気になったが、敵がいるかもしれないと思うと声があげられなかった。その日は、そのまま夜になった。相変わらず、体全体が痛い。しかも、右足から徐々に血液が抜けている。インドとは言え、夜は寒い。
体が動かないから、地面に這いつくばっている。そして、のどの渇きは、目の前の泥水をすすっていた。また、これがよくなかった。赤痢だ。死体に囲まれた森の中で、祖父は時間の感覚が薄れていく。もうろうとする意識の中で、小隊兵たちと一緒に酒盛りをしている夢を見た。腹いっぱい飯を食い、ひもじさとは無縁の中で、最後に見る夢が、最後まで一緒に戦った者達と一緒に往けるのか。そう思うと、涙があふれた。しかし、祖父は目を開けた。「死のう。」祖父は、高熱でうなされていたが、妙に意識がはっきりしていることに気が付いた。死を前にすると人間とは、こんなにも清々しいものなのか。祖父は、震える腕で、拳銃を取り出し、口に押し当てた。
-バンー銃声が森を木魂した。一瞬の静寂とドサッという人が倒れる音がした。と祖父はその時の思い出を語ってくれた。
「誰かいるのか?」
祖父は、聞きなれた日本語で、目を覚ました。死んでない。なぜ?加えた口が痛い。おそらく口の中をやけどしている。確か、祖父は銃で自決を図っていた。
「○○小隊長、生きてるぞ、早く運べ!!」
ことの顛末を聞いたのは、野戦病院に入ってからだった。
中隊長の命令で、森に入った小隊を探しに来たとのことだった。捜索隊が、言うには「〇〇小隊を探していたところ、誰かわからないが、たぶん、おたくのところの兵じゃないかね、こっち、こっちって、手招きするわけ、「なんだ、生きとったんか!」言うて、近づくと急に銃声がするもんだから、慌てて、伏せたけど、そいつらは、一点向かって指さしをしているわけ、俺らは、そこに行くと、小隊長を見つけたんですわ。それに、近くにイギリス兵もいたはずなんだが、何人かはそっちに向かって行き追ったな。」と言っていた。
そして、祖父は、言った。
「ただ、儂の隊は、みんな帰ってきたんじゃけど、みんな死んでた。儂が吹き飛ばされた爆弾でな。あの時の生き残りは儂だけじゃ、儂は、戦友に生かされた身だからな。あの時は、本当につらかったな。だから、盃、ああして、いっぱい置いているんだ。」
祖父は、悲しそうに言いました。
拳銃の一発目が空砲でなかったら、祖父どころか、私もここにいないところでした。
お気づきの方もいるかもしれませんが、祖父は、戦後、ホテルのオーナーとして再起しました。
感動すぎる!! まさか繋がっていたとは、、、、