あの爺さんに 柴刈りを
投稿者:バクシマ (40)
○月△日
やはり朝食には例の汚物が出された。
儂はソレを食べるふりをして、着物の内側に捨ててやり過ごし、そそくさと山に向かった。
しかし、山に来たものの、もう柴を刈るつもりはない。
それどころか、もはやあの家で冬を越すつもりもない。
すぐにでも村を離れ、あの不気味な婆さんから逃れたい。
正気となったいま、振り返ると自分の周囲は全てが異常であった。
思えば最初の記憶から、すでに儂は柴刈りをしていた。そしてあの婆さんといつの間にか暮らしていた。あの謎のキビ団子で飼育されながら。
しかし逃げるにしても、村の周囲がどうなっているかさえ分からないのだから、どの方向に逃げるのかもあてがない。
だから、ひたすらに頂上を目指して山を登っている。儂は今まで山を登りきったことはなかった。山のてっぺんから村の周囲を眺めればきっと行くべき方向が定まるはずだ。
無論、あの村境(むらざかい)の濃霧を抜ける術(すべ)も依然として見つけられないでいる。
だが、いまは山を登るほかに、出来ることはない。
やがて太陽が真上に拝める頃に山頂に到着した。
そして意を決して里を眺める。
村は四方を海に囲まれていた。
「そんな」
逃げ道は、ない。
打ちひしがれて膝から崩れ落ちる。
商人が来ないわけだ。
思い返してみれば、都で鬼が暴れているだとか、外の話は全て婆さんから聞いたことだった。
八方塞がりだ。
もはや立ち上がる気力はない。
ぼーっと周囲を見渡していると、奇妙な物体があるのを認めた。
近づいてみたら、朽ちた墓であった。しかしその墓に名は刻まれておらず、なぜか桃の形が彫られていた。
その時、何か強い衝動に突き動かされた。
そして気づけば、儂はあろうことか墓を暴いていた。不思議とその悪辣な行為に罪悪感はなかった。
墓の下には頭蓋骨が埋められていた。知らず知らずに涙が出てくる。
儂はその頭蓋骨を小脇に抱えて無心に山を降りていった。
それは山の中腹にある小川の前を通った時だった。
脳裏に、はるか昔の記憶がよぎった。
儂は頭蓋骨を川に投げ込んだ。そうしなければならないという衝動に駆られたのだ。すると頭蓋骨は、川底に沈むやいなや、黄金の光を放った。
そして水面に浮上してきたときには、驚くべきことに、それは大きな桃となっていたのだ。
桃は、どんぶらこ どんぶらこ、と下流へと流れていった。
桃が下流に消えていくのを見届けると、儂は再び下山した。
やがて夕暮れになった。
儂は、恐れながらもあの家の前にいた。逃げるための荷物を持ち出さなければ。
戻ってきた馴染みの家は、屋根や壁が朽ちており、もはや古家とも呼べぬ廃屋であった。つくづく自分は化かされていたのだと思う。
婆さんはいなかった。 よし。
囲炉裏らしきところに火をくべる。部屋が僅かに照らされた。
そこには赤黒い血の跡が広がる引き戸があった。
一瞬、躊躇したが、思い切ってその引き戸を開けた。
そこには、ゆうに百を超える日記が散らばっていた。
その中の一冊を手に取り 開く
(筆者)後日投稿予定であるエセの前日譚です。
もうタイトルが最高にイイ!!
kamaです。いいですね~これ。新解釈!
好きです。
(筆者)もとい、エセ怪談の前日譚です。
すばらしい
解釈が新しい訳ではない
すごく面白かったです。
まだこの話だけしか読んでいませんが、
でも、バクシマさんは小説を書く才能があると思いました。
(筆者)皆さん嬉しいコメントありがとうございます。励みになります。
久しぶりに痺れました、あっぱれ!!
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