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ヒトコワ

ねこじろうさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

火葬技師Mの悪夢
長編 2023/08/25 17:45 17,967view
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「そう思うだろう。
だが、これがこの国の現実だ。
『上級国民』、、、あんたもこの言葉聞いたことあるだろう。この一部の特権階級は自分たちの保身のためなら権力を乱用し法律さえもねじ曲げてしまい、黒も白としてしまう。
だから我々はこのような無法者たちに対して法律に代わり罰を与えるのだ。
分かったか。分かったならさっさと仕事を続けろ」

男の言っていることが果たして全て本当のことかどうかは分からない。
でもこの時の俺はまるで催眠をかけられた者のように立ち上がり、棺から聞こえ続ける命乞いの呻き声を無視しながら棺を炉内に収納すると扉を閉じた。

それから裏手に回ると制御盤のスイッチを入れ震える指で点火のスイッチを押す。

あっという間に棺は青い炎に包まれた。

人間というのは本当に勝手なものだ。
さっきまではそんな大それたこと出来ないとしゃがみこんでいたのが、ひとたび正義という大義名分を与えられると簡単に地獄のスイッチさえも押してしまう。

その時何故か俺は未だに戦争というものが無くならない理由が、なんとなく分かるような気がした。

棺から初め聞こえていた苦し気な呻き声が、やがて電車の不快なブレーキ音のような悲痛な叫びに変わっていった。
叫びは少しずつ小さくなっていく。

既に棺は無慈悲な炎に焼き付くされており、中にいた人らしきものが網の上で焼かれるスルメのように今正に半身を起こそうとしていた。

その時だ。

俺は見てしまった。

青白い炎に包まれ半身を黒焦げにした異形の者が大きく2つの瞳を見開き、じっとこちらを睨んでいるのを、、、

「ひっ!」
俺は小さく悲鳴をあげると思わず覗き窓から目を剃らす。

そして瞳をしっかり閉じ両耳を塞ぐとその場に座り込み、ひたすらお経を繰り返す。

─南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、、、

ふと横を見ると、いつの間にか隣に男が立っていた。
そしてガイ・フォークス・マスクを被る顔を近づけて耳元に囁く。

「骨だけは残してくれ」

「約束が違うぞ!後片もなく焼き尽くすんじゃなかったのか?」

俺の抗議に男は続ける。

「安心しろ。全て持ち帰るから。
理由は2つある。
1つは依頼者への証に。
もう1つはあの忌々しい議員に送りつけるためだ。
なにせ突然息子が消えたものだから、今頃あいつ慌てふためいているだろうからな
フフフ、、、奴の怒り狂う顔が目に浮かぶ」
※※※※※※※※※※

6/7
コメント(7)
  • 緊張感がすごくてハラハラしました。

    2023/08/26/13:54
  • コメントありがとうございます。─ねこじろう

    2023/08/27/11:45
  • 場景を想像したらゾッとした。

    2023/08/28/06:32
  • こういう話は嫌いじゃないぞ?
    悪党焼き払ったの気持ち良すぎ

    2023/09/17/20:02
  • 仕事ぶりが評価され、闇葬儀は繁盛した。私もそこそこの蓄えができ、生活にも余裕が出て来た。必殺仕事人の気分。そう、あの日までは。今、檻を見つめながら思う。情けない生活を送っていたあの日、黒光りする車を見た瞬間、自分は死んでいたのだ。世の中、理不尽なことだらけ。正義なんて存在しない。当たり前だ、自然界を見ればわかる。議員のどら息子?些細なことだ。いずれ皆、死ぬ。世の中、ひとりやふたり、いなくなっても、何事もなかったかのように時間は過ぎて行く。さあ、次の世界へ、いざ。

    2023/11/01/22:56
  • 皆様、コメントありがとうございます。
    ねこじろう

    2023/11/18/17:10
  • 私刑執行されたのですね。
    主人公の年齢設定だけが少し気になってしまいました。

    2023/12/01/16:29

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