夏の夜の悪夢─ベランダに現れる女
投稿者:ねこじろう (147)
取り込まれた洗濯物の入った大きなカゴを足元に置き、眞鍋が手すりから下方を見ている。
隣に並んだ小林も同じ方を見た。
そこは彼らが数日前に全裸の女を見た、正面の棟の3階ベランダ。
だが今そこにいるのは女ではなく、男だった。
紺のスーツ姿の年配の男性のようだ。
彼はベランダの手すりに寄りかかり、ただボンヤリと外を眺めている。
「彼氏かな?」
眞鍋が険しい顔で呟くと、小林は「いや、それにしては歳が離れてないか?」と言う。
「じゃあ、父親とか?」
眞鍋はさらに小林に言ったが、彼はそれには答えることはなく、ただベランダにいる年配の男性をじっと見ていた。
男性はやがて後ろを向くと、フラフラと室内に入って行った。
まるで何かに誘導されるかのように。
※※※※※※※※※※
翌日の朝。
その日洗濯当番だった小林は少し早起きし洗濯機を回し2人分の洗濯物をかごに入れ込むと、ベランダに出る。
空は薄曇りだが、雨の降りそうな気配はない。
それから彼はテキパキと洗濯物を一つ一つ干し始めた。
あらかた干し終えた後彼は何気に、向かいの棟に視線をやる。
視線の先には例のベランダあった。
誰もいない狭いコンクリートの空間の片隅には大きな黒っぽいゴミ袋が1個、ポツンとある。
そして小林が室内に戻ろうとした時だ。
あのベランダ奥のサッシ扉が開き、女が現れた。
彼女の姿を見た瞬間、彼はハッと息をのむ。
女はやはり全裸で、あの時と同じように黒っぽい大きなゴミ袋を重たそうに引きずりながら運びベランダの片隅に置くと、再び室内に消えた。
これでゴミ袋は2個並んだ。
※※※※※※※※※※
朝御飯の時、小林はベランダでの事を眞鍋に話した。
「多分昨晩訪れた男と夜を楽しみ、今朝早く男が帰った後、溜まっていたゴミを指定ゴミ袋にまとめて、またベランダに置いたんじゃないか?」
食後のコーヒーを口に運びながら、眞鍋が言う。
「まあ、そんなとこだろうと思うが、何で彼女はいつも全裸なんだろう?」
小林はそう言って、食パンを口に運んだ。
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