追いかけてくる※※
投稿者:haruton (25)
って大声を出しながらリビングまで走っていった。恐る恐る掃き出し窓をみてみるとね、いたんだよ。
黒い蜂が。
なんで。なんで。
もう逃げるしかない。
Tは危機を感じた。かと言って、辺りは暗くなっていたから外に出て逃げるのはよくない、とTは子どもながらに思ったんだ。しかもここら辺は閑散としていて、一体どこに向かって逃げればいいのか、Tには分からなかった。
Tはトイレに立てこもることにした。
しっかりとドアの鍵を閉めて、あの羽音が聞こえないように耳をふさいだ。
可哀想だね。妖怪の余も心が痛むよ。
何分か経つと、ドアの向こうから羽音が嫌でも耳に入ってきた。
ブーン。ブゥゥン。
Tは勘弁してくれって半べそをかいていた。でもこの蜂は不思議だよね。まるでTを追いかけているみたいだよね。
その時ーーガチャリと音がしたんだよ。
Tは思った。
もしかして母親が帰ってきたかもしれないってね。
でもあの黒い蜂がいると考えると、Tはなかなかドアを開けることが出来なかった。ようやっとTは意を決してドアを開けた。蜂は見当たらなかった。
きっとどこか部屋の隅に潜んでいるかもしれないと思うと、Tは気が気ではなかったんだ。Tが恐怖で立ち止まっていると、Tのお袋さんがやってきて、Tに何をしているのか尋ねた。
Tはお袋さんの顔をみて、やっと安心できたんだろうーー事情をお袋さんに話したんだ。お袋さんは蜂を家中探した。
だけど、見つからなかったんだよ。
あんなにTを追いかけてきたくせに…。
あの忌まわしい羽音も聞こえなくなっていた。お袋さんはTに言ったんだ。あんた夢でもみていたんじゃないの、てね。
Tは呆然としたみたい。
ねえキミ。Tは白昼夢を見たと思うかい?
まあ虫除けの札が貼ってあったということは、虫がよく入る場所だったかもしれないよね。でもね、あれ以来蜂が侵入してくることはなかったんだ。
やっぱりTは幻でも見たのかもしれないね。
何年か経つとT達家族は別の地区に引っ越していった。
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