女子大生梨乃─悪夢のヒッチハイク旅行
投稿者:ねこじろう (147)
丁重に断ると、おじさんはドアを閉めて店の方に走っていった。
フロントガラスは次から次に降る雨滴で覆われており、雨は弱まる気配はなさそうである。
さっきは気が付かなかったのだけど、どこからかテレビの音が聞こえてくる。
どうやら後ろの方から聞こえてくるようだ。
後ろの仕切りの真ん中辺りに小さな窓があってカーテンがしてあるのだが、そこから車の後部を見ることが出来るみたいだ。
そっとカーテンの隙間から覗いてみた。
8帖ほどだろうか。
なんだか車の中とは思えないような豪華な雰囲気を醸し出している。
天井のシャンデリア仕様のルームライトからは暖色系の淡い光が灯っている。
カーペットはベージュ色で毛足が長くて贅沢な感じだ。
後部の一番奥まった高いところに横型の液晶テレビが設置されていて、何か古い白黒映画をやっている。
テレビの真下にはガラスのテーブルがあり、数本の艶やかなピンクの薔薇が置かれてあった。
その前にいくつかソファーやテーブルがある。
ショッキングピンクの革のソファーには、こちらに背中を向けて二人の女性が座っていて、テレビを観ているようだ。
やがて車に近づいてくるおじさんの姿が見えてきた。
両手にレジ袋を提げている。
おじさんはまず後ろのドアを開けると車内に入る。
やがてドアがバタンと閉まる音がしたかと思うと、運転席側のドアが開く。
そしてレジ袋を一つ私の座る隣に置きハンドルを握ると「じゃあ、出発!」と元気に言ってエンジンをかけた。
※※※※※※※※※※
車は一般道をしばらく走ると、やがて広い国道に入った。
左側をみると青い海がどこまでも広がっている。
だけど空は灰色の雲に覆われていて、ちょっと不安な気分になる。
カーステレオからは私のお父さんが昔よく聴いていたような歌謡曲が流れていた。
おじさんは左手を伸ばし先程のレジ袋からサンドイッチを取り出すと、私に薦める。
「ありがとうございます。でも私お腹一杯なんで」と断ると、おじさんは一瞬不機嫌な顔をしてからすぐに先程の優しい顔に戻ると、器用にビニールを破りサンドイッチを一つ取り出すと、ムシャムシャ食べだした。
そしていきなりこんな質問をしてきた。
「ところでお嬢さんは彼氏とかいるの?」
唐突な質問に少しどぎまぎしながら「いえ、いません」と正直に答える。
「そうかあ、でもまだ若いからこれからいくらでもチャンスがあるさ」
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