女子大生梨乃─悪夢のヒッチハイク旅行
投稿者:ねこじろう (149)
私、梨乃は、
今年の春ようやく長く暗鬱な受験勉強に終止符を打つことができ、なんとか希望の大学に合格できた。
それまでの重い気分をリフレッシュして新しい一歩を踏み出す節目として入学までの1ヶ月の間に、一人旅をすることにした。
そして電車や車というのはありきたりだから、ヒッチハイクで行こうと決めた。
父母は「若い女の子が一人で、しかもヒッチハイクでなんて」と猛反対したが、毎日必ず一回は連絡するという条件でようやく許してくれた。
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寒いのは嫌だから西の方に行こうという超おおざっぱで能天気な戦略で、まずは自宅のある大阪から九州方面に向かうことにする。
髪を後ろで結び、煉瓦色の長袖Tシャツにジーンズという出来るだけ色気を消した出で立ちにリュックを背負い、小春日和の朝意気揚々と出発した。
徒歩で国道まで行き歩道の適当なところに立ちリュックを降ろすと、中から折り畳んだ50㎝角の画用紙を出して拡げ、両手で頭上に掲げる。
用紙には太マジックで「西へ」と大きく書かれている。
目前を次々に猛スピードで無情に通りすぎる様々な車を恨めしげな目で追いながら、根気よく待ち続けた。
─やっぱり、そんなに甘くないか、、、
そんな思いがちらほらと出始めた頃だった。
ようやく一台の大型トラックがけたたましい音を響かせながら止まってくれた。
ドライバーのおっちゃんは陽気でとても良い人で幸運にも1日めにして本州を出て、夕方頃には北九州の門司港に着くことが出来た。
おっちゃんに丁重にお礼を言って港のだだっ広い駐車場でトラックを降りた時の私は、これなら後3、4日で九州一周出来るかもなどとかなり楽観的な見通しを持っていた、と思う。
だがそれは大きな間違いだった。
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門司港近くのビジネスホテルに泊まり、翌朝チェックアウトしてホテルの玄関を出たとき、タイミングの悪いことに雨が降りだしてきた。
リュックから折り畳みの傘を出してさしながら「ああ、今日はなかなか車止まってくれないだろうなあ」と暗い顔で歩いていると、いきなり背後からクラクションの音がする。
驚いて振り向くと、道路脇に一台の派手なピンク色のキャンピングカーが止まっており、ヘッドライトをパッシングしている。
車の前部には可愛い子猫のキャラクターの飾りが付けられていた。
すると運転席側のウィンドウが下がり、茶髪でロン毛のおじさんが笑みを浮かべて声を掛けてきた。
「お嬢さん、一人旅?」
「はい、そうです」と返事をした。
すると車はゆっくりと前進して私の左側で止まり、またしゃべりかけてきた。
50過ぎくらいだろうか。
眉毛が濃くて目鼻立ちがはっきりしている。
白髪交じりの茶髪を肩まで伸ばしているのだが、頭のてっぺん辺りはかなり薄くて昔の落武者のようだ。
ただ立ち居振る舞いはとても紳士的な感じがした。
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