廃墟実況ライブ
投稿者:ねこじろう (147)
漆喰の壁際には懐かしい箱形のテレビに、年季の入った茶箪笥、そしてその上にはガラスケース入りの日本人形が置かれている。
壁の古時計は不吉なことに4時44分を指して止まっていた。
そして室内の要所要所にそびえ立つけやきの黒い柱。
まるで昭和初め頃から時間が止まったままのような風情だった。
私たちは家具などにぶつからないよう、慎重に歩き進む。
途中私は振り向き肩越しにHさんに囁いた。
『あの、さっき声出したの、何か見えたんですか?』
すると彼は『いや、多分ボクの見間違いと思うんですけど、土間の奥に絣柄のモンペ姿をした老婆がうつむいて立っているのが見えたんです』と言うと、すぐ正面に向き直った。
居間の奥の襖を開くと、黒光りする廊下が左右に伸びていた。
ここでふたてに分かれて、階段を探す。
ディレクター、カメラマンが右手、私とHさんが左手に進む。
そしてふと廊下奥に視線をやった時だ。
瞬間、背筋がゾクリと凍りついた。
奥の薄暗い辺りに、二人の男女が並び立っているのが見えたのだ。
一人は紺の作業着姿の男性、もう一人は割烹着姿の女性、
どちらも年配の方々だったのだが、何をするわけでもなくうつむき虚ろな目をしてじっとしている。
だが私が目を擦り、もう一度見た時にはもうそこには誰もいなかった。
しばらくして『あったぞ、こっちだ』というディレクターの声が反対側奥からして、皆はそこに集まった。
そしてまた私を先頭に、木製の階段をギシリギシリと軋ませながら登って行く。
登りきったところには、また黒光りする廊下が伸びていた。
廊下に沿って襖がいくつか並んでいたから、私とディレクターが各々開いて中を覗いたが、殺風景な畳の間があるだけだ。
すると、
『あの、あそこ、なんでしょうかね?』
と言ってHさんが、廊下突き当たりのドアを懐中電灯で照らす。
皆は一斉にそこに視線を移し、あっと息を飲んだ。
ドアの表面が無数のお札で埋め尽くされていた。
その全てに「忌」と赤い墨で書かれている。
しかもドア下方の床2ヶ所には盛り塩。
カメラマンがそこに近付き撮影しながら「こりゃ、ちょっとヤバいんじゃないんですか?」と声を漏らした。
『だからといって今さら撤収なんか出来ないだろ?』
男が金鹿を殺したんだから、男が金鹿になるんじゃないの?
妹は急にどした。
その男が金鹿になり、妹は祟りで同種に変異したんやろ、、、
皆様、なかなかに鋭いところをつきますね。ラストの場面につきましては、それぞれで解釈していただければ?と思っております。─ねこじろう