約束が違う
投稿者:ねこじろう (147)
長編
2023/06/27
16:11
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今年に入って12月の今日まで、F市では合計37件の自殺があったようだ。
その内の数件なのだが、不審なものがあった。
死に方は、首吊り、睡眠薬、練炭自殺と様々なのだが、そのすべてに二つの共通点があるのだ。
一つは全てが女性だということ。
もう一つは遺体にあることが為されていたということだ。
そして今回のこの件においても同様なことが為されていた。
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F署5階 取調室 午後3時
うなぎの寝床のような殺風景な部屋だ。
一番奥には立て付けの悪そうな窓が一つある。
男はただ俯いて、座っていた。
なぜか紺の作業着姿をしている。
塗装工が仕事で着るようなものだ。
年は50過ぎくらいだろうか。
身長はそんなに高くなく小柄な方だろう。
半分以上が白髪の頭をきれいにオールバックにセットしている。
男の正面にはベテランの明石が座り壁際の机に篠原が座っていた。
明石が男に聞く。
「さて、じゃあ、名前と年齢、住所を教えてくれるか」
男は俯いたまま低い声で答えた。
「名前は木村信二です。
年は今年で53になります。
住所はF市S町5-2のマンションKです」
「職業は?」
「F市の駅の北側で美容室をやっております」
「ほう、美容室……
それで木村さん、美容室をやっているあんたが何であんなところにあんなものを持って座っていたんだ?」
「約束をしておりました」
木村は俯いたまま答えた。
「約束?
約束って、何の約束をしたんだ?」
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