認知症の親父と過ごした最後の日々
投稿者:ねこじろう (147)
すると途端にカビ臭い匂いがプンと鼻をついた。
─一体何が入ってるんだ?
そう思いながら俺は蓋を傍らに置き携帯を片手に持つと、箱の中を照らしてみる。
そして中を覗き込んだ途端、小さく悲鳴をあげながら思わず尻餅をついた。
心臓が激しい鼓動を繰り返しているのを感じる。
ようやく俺は気を取り直すと、もう一度勇気を出して箱の中に視線をやる。
朽ち果てた人間の亡骸が、棺に納まったエジプトのミイラのように箱の中に入れられていた。
半分以上抜け落ちた頭髪。
骸骨を思わせるような干からびた顔面。
紫色で固く筋張った腕や足。
……
そして俺が何より衝撃を受けたのは、その亡骸が着用している衣服だった。
泥で汚れてはいたが、薄い黄色の下地に小さな花を無数に散りばめたような柄のワンピースには見覚えがある。
昔お袋が普段着にしていたものだ。
─お袋、、どうして、、
俺は小さく呟きながらその場にがっくりと跪くと、その枯れ木のような細い手にそっと触れる。
知らぬ間に熱いものが頬をつたい、顎先からポトリと落ちた。
そして最後にもう一度変わり果てたお袋の姿を見た時、ちょうどその肩の辺りに奇妙なモノがあるのに気付く。
それは20センチほどの、木製のこん棒のてっぺんに黒っぽい金属のような何かが付けられたモノ。
俺はそれを持ち眼前にかざすと、携帯ライトで照らす。
それはカナヅチだった。
しかも柄のところに製作者の名が彫ってあるプロ仕様のものだ。
これも憶えがあった。
幼い頃振り回して遊んでいたら、おもちゃじゃないぞと親父にこっぴどく怒られたものだ。
ライトで照らしながらさらにそれをまじまじと見ていると、そのヘッド部分の先っぽに何かが付着しているのに気付く。
「何だろう?と」それを指で摘まみ眼前に翳し、ゾクリとした。
それは数本の長い黒髪。
嫌な予感が胸をよぎるのを感じながらも、恐る恐る亡骸の頭部に携帯ライトを照らした途端、一瞬で背筋が凍った。
前頭部が深く陥没している!
カナヅチを持った右手の震えが止まらない。
貴方が親殺しの大罪を犯す前に、お母様がお父様を迎えに来て、最終的に貴方を護ったのでしょうね。
変わり果てたお母様を目の当たりにしたご心痛はいかばかりかと、言葉が詰まります
こういうのが読みたかった
なぜだろう?涙がこぼれてきた。
すごく心に響きました。
⬆️皆様、暖かいコメントありがとうございます!
─ねこじろうより
母親はあの世からでも自分の子供を守るのですね。
何だか、実家の母に会いたくなりました。
コメントありがとうございます。
母の愛は深いですよね。
─ねこじろう
心にくる話ですね
良いものを読ませていただきました
ありがとうございます。
─ねこじろうより
とてつもない名作。
ありがとうございます。
ねこじろう
ここ最近で一番面白かった
ありがとうございます。
─ねこじろう
母の愛っていいものですよね
それにとてもいい名作
母の愛は海よりも深い、という言葉を思いだしました。
母の愛という観点から読んでいただいた方が意外とおられて、驚いております。
─ねこじろう
名作中の名作。この作品を越えるものは?
ヒトコワで心霊怖くて、そして温かい。これは名作!