一人だるまさんがころんだ

久しぶりの飲み会で帰りが遅くなり、運よく終電で帰る事ができた。

最寄りの駅を降りた頃には深夜1時近くになっていた。

かなり酔っていた俺は、酔い覚ましに駅の自販機で缶コーヒーを買い、帰る途中にあるちょっとした公園のベンチに座った。

コーヒーを飲みながら公園を見渡すと、1枚の注意書きの看板があった。

今どきは公園の騒音問題が話題になっているから、気になって歩いて見に行ってみた。

公園の周辺は街灯が少なくて薄暗かったが、かろうじて看板を読むことができた。

看板の注意書きは特に変わった事などなく、住宅が近いので野球をしてはいけないとか、空ぶかしなどして騒音を出してはいけないとか、そんな内容だった。

しかし、よく見ると一番下の余白の部分に、後から誰かに手で書き足された一文があった。

『ひとりでだるまさんがころんだをしてはいけません』

普通「だるまさんがころんだ」は一人ではやらないから、わざわざこんな事が書かれている事が気になって、酔っていた俺は興味本位に「一人だるまさんがころんだ」をやってみることにした。

看板の横にある公園で一番大きな木に行くと、俺は右腕で目を隠し、その腕を木の幹にくっつけた。

「だーるまさんがころんだ！」

小さな声でそうつぶやき、腕の目隠しを外して後ろに振り返った。

当然だが、そこには誰もいない。やっているのは俺一人だから当たり前だ。

もう一度腕で目隠しをして木に腕をくっつけ、もう一度

「だーるまさんがころんだ！」

そう言って後ろを振り返った。

すると、20メートルほど先に一つの黒い人影が見えた。

街灯がほとんど無くて暗い中ではそれがどんな人かわからなかったが、その人影が微動だにしていない事だけはわかった。

俺はまた目隠しをして木に向かった。

「だーるまさんがころんだ！」

そう呟いて後ろを振り返ると、さっきの人影は3メートルほど近づいていた。

しかし、さっきと違うのは、その人影の後ろにもう一つ人影が増えたように見えた事だ。

もしかしたら、俺が一人でこんな夜中に「だるまさんがころんだ」をやっているのを見た通行人が面白がってからかってやろうとでも思ったのかもしれない。

俺は酔って気が大きくなっているのか、それなら続けてみようと思って、また

「だーるまさんがころんだ！」

と呟いて後ろを振り返った。

最初の影はさらに3メートルほど近づいていて、その後ろの影も同じように近づいていた。

そして、人影は3つに増えていた。

それからは「だーるまさんがころんだ！」を繰り返すと影はそのたびに増えていき、近づいていた。