蕎麦屋の話
投稿者:kana (210)
ずいぶん遅い時間まで酒を飲んで帰る途中、屋台の蕎麦屋があるのを見つけた。
ラーメン屋の屋台ならよく見かけるが、
イマドキまだ屋台の蕎麦屋なんてものがあるんだなと、感心した。
オンボロ加減がまたいい風情で、これは一杯食って行かねばなるまいと、腹の虫が鳴いた。
酒を飲んだ後って、どうしてこう腹が減るんだろうねぇ。
のれんをピラッと手の平だけで返して「おっちゃん、やってる~?」と聞いてみる。
「かけ蕎麦しかないけど、いいかい」店の親父が言う。何才だろう。もうとうに70才は超えてそうに見える。
「あぁ、それでいいよ。かけちょうだい」
「あい、かけ一丁~。・・・お客さん運がいいね。最後の一杯だ・・・」
そう言ってセイロからそばの束を取り出してゆで始める。
だが、見たところセイロにはもう一束蕎麦が残っていた。
「おっちゃん、蕎麦ならまだあるじゃない。まだオレで最後じゃないんじゃないの~?」
「なんだいお客さん、運もいいけど目もいいねぇ。でもね、これはダメ。最後の一杯はお客さんには出さないことにしてんのよ」
「へぇ・・・。あ、わかった。最後の一杯は自分で食べるんだ」
「いやぁ、これはね、予約されてる方がいるんですよ」
「よ、予約ぅ?? 屋台で? でもさっきお客さんには出さないって言ったよね?」
「ヘイお待ち、かけ一丁」
「おっ、いただきます」南蛮をかけ、割り箸を割る。
「あっしがね、脱サラして屋台の蕎麦屋をはじめてしばらくしてのこと・・・」
蕎麦屋がなにか語りだしたので、蕎麦を食いながらだまってウンウンと話を聞く事にした。
・・・・・・
40代で脱サラし、蕎麦づくりにはまって勉強して、自信をもって屋台を出してみたものの、なかなかうまくいかず。ある冬の晩、もう辞めようと・・・今夜で蕎麦屋も廃業だと、そう思っていた所に、ひとりの中年オヤジがふらりと屋台に入って来た。
当時はいろいろなメニューを出していたが、その客はかけ蕎麦を注文してきた。
その日はちょうどそれが最後の一杯だった。
「あぁ、これでオレの蕎麦屋もおしまいだな・・・これで本当の店じまいか・・・」と、
そう思いながら、かけ蕎麦を客に出した。
ところがその客、汁を一杯口にしたところで
「・・・んあぁ~・・・うんめぇなぁ~!」と絞り出すようにつぶやいた。
蕎麦をすすっては「はぁ~・・・これだよ蕎麦は、これこそ本物の蕎麦だよ」と、
いちいち感激しながら食べてくれるのだ。
心温まるお話でした(泣)
ホロリとさせてからの最後のヲチが何気に怖い。「一杯の掛け蕎麦」をモチーフにしたのでしょうか。
↑kamaです。コメントありがとうございます。
1回目と、オチが判ってからの2回目では、また違った視点があるかもしれないですよ。
ぜひまた読んでくださいね。
「一杯の掛け蕎麦」ってありましたね、有名なお話。今回ボクのお話では残念ながらモチーフにはしていません。でも不思議ですよね。こーゆーお話にはやっぱり蕎麦が良く似合う。
ラーメン屋でもうどん屋でもおでん屋でも何でもよかったのかもしれませんが、なんとなくラーメンだともっと過激な感じがするし、うどんだと明るい気がするし、蕎麦ってのがやっぱりいいのかな?って思います。
仕事の最後を覚悟した人と、人生の最後を覚悟した人が偶然交差したところにうまれたお話。
・・・そういえばこの怪談、実際には幽霊は出てこないんですよねぇ・・・。
なんか怖いけど、みたいな感じになってるけど実際体験したら、((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
kamaです。読みやすいように一部修正を入れました。
↑↑kamaです。コメントありがとうございます。体験した本人はわらいごとじゃないですよね~きっと。あと、実はこの蕎麦屋自体が幽霊だった説ってのもありまして・・・・。
最後が((( ;゚Д゚)))
実は蕎麦屋さん(屋台)がこの世のものでなかった…というオチかと思っていました笑
↑kamaです。コメントありがとうございます。そう、もしかしたら幽霊の蕎麦屋が幽霊の客をもてなしてる話かもしれないですね、これ。
最近Youtubeでこれの動画がたくさん上がってるね
一緒に食べたらいいのに
その勇気?はありません。
毎度あり〜!
これ読んでると感じるんですけど、たぶんみんなどこかで自分の頑張りを誰かから認められたいって思ってるんだろうなって事。このお話はそこを突いてくるから泣けるんだと。
よくグルメレポートみたいなことする人たちがいるけど、飯が旨い話ばっかで、最悪なのはこんなのマズイだのヘタクソだの言う人がいること。それはもうあり得ないと思うんだけど、逆にこの話しみたいにあんたの腕が最高だって褒める人ってそんなにいないよね。そーゆーの、もっとあってもいいと思うんだけどね。その方が幸せになるでしょ?
この話をするとね、たいていのお客さんはそそくさと帰るんですよ。店じまいの合言葉みたいなもん。ところが中には留まる方もいらっしゃる。よく見るとその方もあちらの方なんです。それを見極められるかも最近の楽しみなんです。
↑わー、コメント欄でつづきかがはじまってるwww
kamaです。最新作【蕎麦屋の幽霊事件】-事件記者 朽屋瑠子-で、このお話の解決編をやってます。よかったらそちらもお読みください。