蕎麦屋の話
投稿者:kana (210)
それを見た店主は、涙があふれ出そうになるのを我慢しながら男に礼を言った。
本当はこれでもう店をつぶそうと思っていたのだと、心の内を吐き出した。
すると今度はその客が「いやいや、なんてもったいないことを言うんだ」と、店主を励まし始めた。「こんなうまい蕎麦を作れる人間が、ナニそんなに簡単にあきらめるんだ」と。
真剣な目つきで店主を諭す。
「今日食った蕎麦はオレの人生で一番うまい蕎麦だったよ、掛け値ナシだ!」
そう称えてくれた。
おかげで、店主はもう一度蕎麦の道を探求しようと思い立った。
「どうぞ、お代はけっこうです。おかげで目が覚めました。またいつでも来てください」
そう言って店主は客を送り出した。
・・・・・・
「へぇ~。じゃあ、その最後の一杯はその恩人のために残してあるんだ」
「えぇ、まぁそうなんですけどね。・・・その人・・・その後すぐ、電車に飛び込んじまいましてね・・・」
「えっ!?」
「覚悟の末だったみたいでね・・・。死ぬ前に最後の一杯をウチで食べて、最後の最後であっしのことを助けてくれて、それで自分が死んじゃあ・・・お話にもならんですわ」
気のせいか、店主の親父の目に光るものがあるように見えた。
「そうなんだ・・・人生ってのはわからんもんだねぇ」
「でもね、そのお客さん、それから毎晩のように来てくれるんですよ」
「えっ?・・・さっき死んだって・・・」
「毎晩ね、最後のお客さんが帰った後にね、ヒタヒタってやってくるんですよ。もう死んでんですけどね、ウチの蕎麦だけはいつも食いに来てくれるんですよ・・・。
だからその分、一杯分だけはかならず残しておくことにしてんです」
「えっ、えぇぇ・・・そ、そうなんだ・・・あぁ、じゃあそろそろ来るのかな?」
「そうですね、あぁ、ヒタヒタ足音が聞こえてきましたかね。そろそろご到着みたいです」
「あぁ、そう、じゃあオイトマしようかなハハ、お代ここに置いとくね。釣りはいらないよ!すごく旨かったよ、うん、確かにうまかった! じゃね!」
「ハイまたおこしを~~」
店主の挨拶もそこそこに、オレは走り出していた。
もちろん、後ろを振り返らないように。
心温まるお話でした(泣)
ホロリとさせてからの最後のヲチが何気に怖い。「一杯の掛け蕎麦」をモチーフにしたのでしょうか。
↑kamaです。コメントありがとうございます。
1回目と、オチが判ってからの2回目では、また違った視点があるかもしれないですよ。
ぜひまた読んでくださいね。
「一杯の掛け蕎麦」ってありましたね、有名なお話。今回ボクのお話では残念ながらモチーフにはしていません。でも不思議ですよね。こーゆーお話にはやっぱり蕎麦が良く似合う。
ラーメン屋でもうどん屋でもおでん屋でも何でもよかったのかもしれませんが、なんとなくラーメンだともっと過激な感じがするし、うどんだと明るい気がするし、蕎麦ってのがやっぱりいいのかな?って思います。
仕事の最後を覚悟した人と、人生の最後を覚悟した人が偶然交差したところにうまれたお話。
・・・そういえばこの怪談、実際には幽霊は出てこないんですよねぇ・・・。
なんか怖いけど、みたいな感じになってるけど実際体験したら、((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
kamaです。読みやすいように一部修正を入れました。
↑↑kamaです。コメントありがとうございます。体験した本人はわらいごとじゃないですよね~きっと。あと、実はこの蕎麦屋自体が幽霊だった説ってのもありまして・・・・。
最後が((( ;゚Д゚)))
実は蕎麦屋さん(屋台)がこの世のものでなかった…というオチかと思っていました笑
↑kamaです。コメントありがとうございます。そう、もしかしたら幽霊の蕎麦屋が幽霊の客をもてなしてる話かもしれないですね、これ。
最近Youtubeでこれの動画がたくさん上がってるね
一緒に食べたらいいのに
その勇気?はありません。
毎度あり〜!
これ読んでると感じるんですけど、たぶんみんなどこかで自分の頑張りを誰かから認められたいって思ってるんだろうなって事。このお話はそこを突いてくるから泣けるんだと。
よくグルメレポートみたいなことする人たちがいるけど、飯が旨い話ばっかで、最悪なのはこんなのマズイだのヘタクソだの言う人がいること。それはもうあり得ないと思うんだけど、逆にこの話しみたいにあんたの腕が最高だって褒める人ってそんなにいないよね。そーゆーの、もっとあってもいいと思うんだけどね。その方が幸せになるでしょ?
この話をするとね、たいていのお客さんはそそくさと帰るんですよ。店じまいの合言葉みたいなもん。ところが中には留まる方もいらっしゃる。よく見るとその方もあちらの方なんです。それを見極められるかも最近の楽しみなんです。
↑わー、コメント欄でつづきかがはじまってるwww
kamaです。最新作【蕎麦屋の幽霊事件】-事件記者 朽屋瑠子-で、このお話の解決編をやってます。よかったらそちらもお読みください。