雪の中で見かけたヤバい奴
投稿者:with (43)
豆粒とまではいかないが、目を細めてようやく何か体を動かしていることが分かる距離。
まるで踊ってるように手足を上下に動かしてるように見えるが、どうにも鮮明に何をしているのかが分からなくてムズムズし、浅慮にもソレに近づく俺。
ちょっとずつ、ちょっとずつ近づくと、ソレがどんな格好をしているのが見えてくる。
ソレは白地の和装に白い羽織、焦げ茶っぽいフサフサの長髪を生やした鬼の面をしてた。
そして、手足を動かしていたのは、狂ったように鉈を振り上げては叩き下ろす動きの繰り返しで、その足場には雪と一緒に血に染まった肉塊が転がってた。
ソレはその動かない肉塊に向けて何度も鉈を叩きつけてたんだが、その様子がまるで踊ってるように見えていたと気づく。
ゲームなんかで見る儀式みたいだとも思ったが、さすがに血色のシャーベットが広がっていくのを見ると気分が悪くなる。
俺は気づかれないようにそっとその場から離れようとするも、不運なことに少し強風が吹いて、ちょうど俺が隠れている木に積もった雪が『ドドドドッ』と落ちてきた。
その一部が頭に落ちて首筋から背中に入ったから、冷たさで「ウホオオ!?」って変な声が出てしまうと、すぐにハッと前を見る。
ソレがめっちゃこっち見てた。
俺の中では一分くらい見つめ合ってたと思う。
向こうもこの雪景色と雑木林特有の視界の悪さのせいですぐには俺の存在に気づかないと思ってた。
でも、実際はほんの数秒くらいでソレが鉈を振りかざしてこっちに走ってきたから、一瞬で俺の存在は気づかれてた。
俺は雪に足を取られながらすぐに逃げ出したが、ソレはずっと鉈を振りかざしたまま無言で俺を追いかけてきた。
マジで怖かった。
余談だが、昔ドラマで見た金田一の雪夜叉を思い出した。
ソレの足はそこまで早くなかった。
雪道なのが幸いしたのか、子供の俺の方が小回りが利くのか、木々を避けて最短ルートで直進するのが俺の方が上手だった。
ただ、林の結構深くまで入ってたから逃げてる方向が公園で合ってるのか少し自信が無い。
それでもソレに追いつかれるわけにはいかないのは本能でわかってたから、全速前進で林を突っ切った。
たまに後ろを振り返るとキレてんのか知らんけど、枝木に八つ当たりするように鉈を打ち付けてるのが見える。
マジで追いつかれたら鉈で殺されるのが分かると、その恐怖心が動力源になってかつてない速力と持久力を俺は発揮した。
すごい長い距離を走った気分だったが、たぶん五分も経たずに公園の端っこあたりのエリアに抜け出した。
最悪なことに遊歩道でもないせいか、そこには遊歩道から除雪された雪が寄せ集められていて、俺の背丈ほどまで高く積み上げられた防壁みたいになってた。
ぴょんぴょんと跳ねれば、雪の防壁の奥に馴染みの建物が見えるから公園のどこかだとは分かった。
このまま雪の中を突っ切ってもいいのだが、公園には水路がある。
一瞬「この雪の中を突っ切って溝に落ちないよな?」と躊躇したが、ソレの事を思い浮かべると溝に落ちて水浸しになるくらいどうってことないと覚悟して雪の中に突っ込んだ。
ついでにあいつが俺を見失ってくれるようになるべく俺が潜った道に描き分けた雪を崩して道を塞ぐようにしたが、意味があるのかはわからない。
そうやって雪の中を泳ぐように直進していると、急に足場が消えたようにフワッと体が落下した。
水路に落ちた。
生きててよかったですね
もし自分が作者の立場だったらと考えるとぞっとする…
その得体のしれない物は、なんだったのでしょう?
なまはげ?