ネズミ色のパーカー
投稿者:吉備津之釜 (1)
その後、しょうがないので私も帰ろうとしたのですが、別の子に誘われたのでそのまま公園で遊ぶことにしました。
遊びながら途中で気になり、女の人のほうを見たけれど、いつの間にかいなくなっていて、やっぱりAちゃんが私を怖がらせようとしただけなんだろうと思ったのです。
「ばいばーい、みんなまたねー!」
夕方のチャイムがなると、みんないっせいに公園を出ていきます。
私も一緒に遊んでいた子たちにばいばいして、家に帰ろうとしたんですが、ふいに背中に誰かの視線を感じたのです。
振り返ると、ねずみ色のパーカーを着た女の人がクマの滑り台の横に立っていました。
「え、さっきまでいなかったよね……」
頭に浮かんだのはAちゃんの言葉です。
――あの人、顔がないんだもん。
女の人にはちゃんと顔があります。
私のほうを見ていて、ゆっくりとスローモーションのように首をかしげて……。
「か、帰らなくっちゃ!!」
何だかよく分からない恐怖が芽生え、私は一目散に駆け出しました。
家までは走ればたったの数分です。
横断歩道を渡って、1つ目の角を右に曲がればあとは真っすぐ。
その間、一度も後ろを振り返ったりはしませんでした。
門を開け、ポケットから鍵をだして、玄関ドアを開けて……。
誰も入ってこれないように鍵さえ掛ければもう大丈夫。
私はその場でへたり込みます。
心臓のドキドキは全然収まってくれず「はぁ~~~」と吐き出した息は震えていました。
「今何時かな……」
どれくらい玄関でうずくまっていたでしょうか。
やたらとだるい体に言うことを聞かせリビングに入ると、電気を付けないといけないくらい暗くなってることに気付いて、灯りをつけたその刹那――。
ピンポーン。
「ひっ!?」
思わず悲鳴を上げてしまいましたが、確認しないわけにはいきません。
もしかしたらお母さんかも知れないと、私は勇気を振り絞りモニターを見ます。
「なーんだ、やっぱりお母さんじゃん!」
お母さんが帰ってきてくれれば、これ以上、怖い思いをしなくて済みます。
私は急いで玄関のカギを開けに行きました。
退治しなくてわ。