ネズミ色のパーカー
投稿者:吉備津之釜 (1)
これは私が小学生の頃に体験した話です。
私の家は両親が共働きで、学校が終わって家に帰っても誰もいません。
自分で言うのもなんですが割としっかりしていた子供でしたし、ひとりで留守番するのはそんなに苦ではありませんでした。
ただ、やっぱり心細くなったりする時もあります。
例えば図書室にあった怖い漫画を読んだ後とか、先生に理不尽に叱られた日の放課後とか。
そんな時は一度家には帰りますが、すぐに出掛けて、近所の公園で遊ぶようにしていました。
その公園の真ん中にはクマの形をした大きな滑り台があり、子供の間では『クマさん公園』と呼ばれていて、公園に面した道路からの見通しも良く、老人会の人たちが毎日清掃をしてくれているので『怖い』というイメージはまったくありませんでした。
常に入れ替わり立ち替わり10人くらいの子供がいる感じでしょうか。
ほとんどが小学生。だから少し違和感を覚えたのは確かです……。
「……あの女の人何してるんだろ?」
その日、クマさん公園に行くと同級生のAちゃんがいたのでベンチに座って2人でおしゃべりをしていました。
1時間くらい経った頃でしょうか。
Aちゃんが小声でそんなことを言い出したのです。
「ずっとあそこにいるの。何もしないで立ってるの。なんかおかしくない?」
Aちゃんに言われるまで気付いていませんでしたが、見ると、確かに公園の入り口辺りに、ねずみ色のパーカーを着た女の人が立っています。
「もしかして誘拐犯!?」
真顔でそんなことを言うAちゃんがおかしくて、私は思わず笑ってしまいました。
「誰かのお姉さんとかじゃない?」
「えー、本物の誘拐犯だったらどうするの? 危険じゃん!」
「心配しなくても何かあったら「助けてー!!」って叫んだら大人の人がすぐに来てくれるよ」
実際、公園に面した道路は人通りも多いので、そんな心配をしている子供はいないででしょう。
だけど、私の言葉にAちゃんはどうしても納得いかない様子で……。
「やっぱりおかしいと思う! だってね、だってね!」
――あの人、顔がないんだもん。
耳打ちされた私はAちゃんが何を言ってるのか分かりませんでした。
だって遠目からでも、女の人の顔ははっきり見ることが出来ます。目も鼻も口もちゃんとあるんです。
「何言ってるの。Aちゃん私のこと怖がらせようとしてる?」
「違うもん! 今はあるけどさっきはなかったの! 私見たの!」
「あはは、意味わかんない」
「もういいっ! 私帰るね、ばいばい!」
「あっ、ちょっとAちゃんってば……あーあ、ほんとに帰っちゃった」
退治しなくてわ。