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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

雪踏む侵攻
長編 2023/03/18 23:56 3,585view

友人と夜道を歩いていた時の話。

「酒は買ったろ?豆もイカもジャーキーもあるし…ああ、あと甘いモンも欲しいな」
「酒の量より肴の方が多くなってないか?」
「夜中って腹減るじゃん…あ、カップ麺とかも買っとく?」
「…そうだな。温かいものは欲しい」

目を輝かせながら買い物袋の中を覗く友人を見て、白い息と共に笑いが漏れた。歩道の端を歩けば薄く積もった雪を踏みしめ、靴底がキュ、と音を鳴らす。今夜も冷える。コンビニに寄るならおでんなんかもいいかもしれない。

「君にはどういった風に…かの存在たちは見えているんだ?」
「えー?そういう話家帰るまで待てないの?」

「まあ、メインの話は家で飲み食いしながらだが…触りくらいは今でもいいだろう?」
「触りねぇ…まあ、そんなに奇抜な見え方はしてないと思う。声とかも聞こえるし…しいて言うなら半透明くらい透けてるから、それで区別してる」

「声は?何か話しかけてきたりは…?」
「たまにあるけど、大体は何言ってるかわからない。ノイズみたいな音も乗るし」
「ノイズか…」
「どうかした?」

「いや、その者たちは何を語りかけてきてるのかと」
「あーお前そういうのに関心がいくんだ」

「ほどほどに、とは有識者たちからは言われるよ」
「俺も同意見かな。聞けてもどうしようもない事の方が多いし、」

何かが接触してくる時って善意ばっかじゃないでしょ?

そうだな、とだけ返した。それは生者にも言えることだ、とも思ったが、友人の少し憂いた目を見るとそんな野暮ったい言葉は口にはできなかった。

そんな話をしている間にコンビニに着き、友人は意気揚々と買い物かごを持って即席麺のコーナーに行ってしまった。甘いものも欲しがっていたから、恐らくそのまま菓子類も見繕いに行くのだろう。今宵の肴の選定は友人に任せるとするか、と、無性に食べたくなったポタージュのカップスープを手に取った。

コンビニから出てついた帰路は、雪の白に覆われ始めていた。見上げると電灯の下をハラハラと綿のような雪が舞っていて、思わず白い息を吐いた。

「今夜の内にもう少し積もりそうかな…」
「何?雪珍しい?」

「そうだな…生まれ育った地方ではほとんど雪が降らなかった」
「ちゃんと前見て歩けよー。積もり始めが一番滑りやすいんだから。ちょっと積もってて誰も踏んでない地面を歩……」

隣からの言葉が途切れ、同時にガサリと買い物袋が鳴った。視線を寄越すと友人が立ち止まっている。

「どうした?」
「……しまった。明日の朝飲む味噌汁買い忘れた」

あまりに真剣なトーンでいうものだからベタだが足元が滑りそうになった。ぐらついた此方の腕を掴んで支えた友人をジトリと見やれば、友人は悪びれた様子もなく掴む腕はそのままに歩き出した。

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コメント(1)
  • kamaです。うまいですねぇ。文章の組み立て方とか。好きです。

    2023/03/19/15:10

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