30センチメートルの穴
投稿者:雨音 (10)
それは、私が高校一年生の時のお話です。
私は当時実家から少し離れた高校まで、片道1時間の電車通学をしていました。
家が遠い学生の常と言いますか、乗り換えに失敗すると20分以上到着が遅れてしまうこともあって、私は毎朝早起きをして登校時間の1時間前には学校につくようにしていました。
その日もいつものように、他の生徒たちが登校するよりも早い時間に、私は駅のホームで乗り換えの電車を待っていました。
子どもの頃から朝に弱い私は、うつらうつらしながら目の前に並ぶサラリーマンたちが電車に乗り込むのに続いて歩きだしました。
そして、電車に乗り込もうとしたとき、一瞬意識が途切れました。
すぐに意識を取り戻し、目を開けると、目の前には電車の床と、沢山の人の足、足、足。
私は電車のホームの隙間に腰まですっぽりと入り込んで、ハマってしまっていました。
その駅は、電車とホームの隙間が大きく空いていることで、地元でも有名な駅でした。
(うわあ、恥ずかしい)
ウトウトしてホームに落っこちるなんて、朝から最悪です。
早く脱出しようと両手を踏ん張って這い上がろうとしたものの、下半身が重たくて動けそうもありません。
私は仕方なく大声で助けを呼びました。
でも、誰もこちらを振り返ってくれません。
私の声なんて聞こえてないかのように、誰一人こちらに見向きもしないのです。
女子高生が電車と駅のホームに挟まっているという異様な光景を、だれも気にもとめません。
(誰も助けてくれない)
そう気づいた私は、死にものぐるいの力で両腕で全力で床を押して、無理やり這うようにして電車に乗り込みました。
私が乗り込んだのと、電車のドアがしまるのは、ほとんど同時でした。
あまりの恐怖にうずくまって泣いていると、そこでようやく私に視線が集まってきました。
好奇の目を浴びせられて、恥ずかしさに立ち上がろうとしても、身体がいうことをききません。
次の駅で乗り込んできた友人が私を見つけて駆け寄ってくるまで、私は一人で泣いていました。
事情を知った友人に支えられて、私と友人は学校に向かい、保健室に行くことにしました。
養護の先生に叱られながら椅子に座らされ、学校指定のハイソックスを脱ぐと
そこにはびっしりと、人の手の形をした痣が大量に残っていました。
大人になってから「怖い話をして」と言われると、私は必ずこの時の話をするのですが、
たまたま同郷の人にその話をした時に
「それ、○○駅?」
と真剣な顔をして聞かれました。
怖いですね。私もちびっこの時に、電車とホームの間に靴をよく落としたのですが、もしかして引っ張られてたのかしら。
普通は落ちたら助けるよね。
助けない乗客のほうが怖いなぁ!
危ない駅は使わない方がいいね!
乗客には引っ張られているときの姿が見えていなかったってこと?かな?