バスから降りたら知らない町だった
投稿者:すもも (10)
そんな中、ここで下車したもう一人の男性。
スーツを着こなした会社員風の男性が頻りに携帯電話を片手にノートパソコンをいじっていましたが、小さく「くそ、何で繋がんないんだ」とぼやいていました。
腰かけただけで崩れ落ちそうなベンチで項垂れるような格好の男性を余所に、私はバスが来た方向をボーっと眺め、こうなったらもう歩いて帰るしか戻る方法は無いと覚悟を決めていました。
その前に一応男性の許に歩み寄り「すみません、やっぱり圏外ですか?」と最後の望みをかけて訊ねてみるも、男性は「ん?あ、ああ。電話も繋がらんし、ネットも駄目だ。場所の検索もできないよ」と絶望したような顔で返してきました。
もしかしたら出社中か取引先に向かう最中だったのか、何れによせ社会人は学生の私以上にこの状況には肝を冷やしているだろうなと思い、心の中で合掌しました。
「私はもう歩いてバスが来た道を引き返すしかないと思ってるんですけど、皆さんはどうしますか?」
学生の私はただ歩くだけなら半日くらいは歩ける体力がある。
けれど、おばあさんは歩くだけでもしんどいだろうし、男性も革靴で長距離移動は疲れるだろう。
しかし、ゆっくりでも歩いて戻る他、この見知らぬ土地から帰る手段は無い。
どこかに人が居れば電話か何か借りられそうなものですが、残念ながら人っ子一人見当たりません。
「あたしは足がねえ…」
あばあさんは自分の膝を摩る。
恐らく膝が悪いのだろう。
「このままここに居てもしょうがないしなあ。あばあさん、ゆっくりでいいから来た道を戻ってみましょう。それにバスが通っているのは分かってるんだから、道中で他の車とすれ違ったらヒッチハイクよろしく、助けを求めればいい。最悪、タクシーを呼んでもらえないか交渉しよう」
おお、さすが社会人。
男性はおばあさんを励まし、進むべき方向性を示してくれた。
ただ闇雲に来た道を歩き続ければ何れ街に出ると考えていた自分が恥ずかしくなりました。
それから私達三人は辛うじて舗装されている道路を歩き始めました。
おばあさんは私の片腕を杖代わりに。
男性は携帯電話を片手に私達の荷物を一人で背負いながら、周辺を観察するように先頭を歩いていました。
ここまで三十分程度は歩いたと思います。
それで分かったのが、ここは人の気配がない無人の集落ではないかという事でした。
車通りはゼロ。
途中、小屋なのか廃屋なのか判断しづらい生活感のある家を何軒か見かけたので、男性が率先してドアを叩いて住人に電話を貸してもらおうと交渉に及ぼうと試みました。
しかし、どこの家も反応はありません。
畑には奇妙な案山子が棒立ちしていて気味が悪いし、私達は段々と非現実感に襲われていき『本当に帰れるのか?』という不安が足取りを重くさせました。
奇妙な案山子というのは、ふつう案山子は十字状の棒に笠と服を着せたへのへのもへじの人形姿を想像すると思いますが、何故かこの町の案山子は蝋人形のように精巧に作られた外見をしていて、遠目では人間が棒立ちしているようにか見えません。
それに、何故か道路側、つまり、道路を歩いている私達を監視するように全案山子が内側を向いています。
「マジで廃村か?ここは…」
さすがの男性も半日以上かけて街まで歩き続けないといけないという現実が見えてきて焦りを浮かべていました。
おばあさんの体力、というか膝の具合も心配ですし、私もいざ歩いてみればこれを半日以上続けるのは拷問だと思い始めていました。
読み応えがあり引き込まれました。とても文才がおありと存じます。
眠りがスイッチになって、不思議な世界が同時間軸に存在しているのかも?という好奇心が刺激されました。
電車やバスなど交通手段で意図せず異世界に移動してしまったお話は、きさらぎ駅同様、とても興味深いです。
きさらぎ駅と同じ太鼓の音。
3人とも無事に帰還され良かったです。
こういう話わくわくするね
おばあさんは平屋で待っていて、無事だったのか気になる…
これ映画の「きさらぎ駅」と、ほぼストーリー同じじゃない?
単に電車がバスになっただけで。
きさらぎ駅と違ってハッピーエンドで良かったじゃん
その場所、何か曰くみたいなモノがあったりするのかな? それで白昼夢みたいなものを偶々、寝ていた三人が魅せられたみたいな事なのかな、と思ってね。 なんか、現代回顧版みたいな話しだよな〜。
展開に無理がなく、情景が浮かんできます。
おいおい、運転手に聞けよ。ってか、一番怪しいじゃん。
引き込まれました。どういう展開、どういう結末なんだろう・・・と。読んでいてここまでドキドキするのは私としては珍しく、久々に良質の怖い話を読ませて頂きました。ありがとうございました。
とても面白かったです
やっぱ異世界があるとしてもこんな感じに似てるけど常識が全く通じない異様な場所なのかな
あんななろう系のファンタジー系じゃなく
面白かった。
唯一思うのはその状況だったら最後3人で大騒ぎするでしょ
そそくさと降りるかなぁ
おっさんの意図が気になるな
最初は危害を加えようとしてるのかと思ったけど、村民達は三人が来てる事を聞いてなかったっぽいし眠らせて家から出ないようにする事で夜現れる村民達と遭遇させないよう守ろうとした可能性もある…のか?