平成10年頃のお盆前のこと。
当時一人暮らししていた借家で、日曜日にごろごろしていると、昼過ぎに誰かが訪ねてきた。
玄関に出てみると、借家の大家の息子さんだった。
何年かぶりに顔を合わせたので、「お久しぶりです」とか社交辞令のあいさつを交わした。
息子さんはちょっと神妙な顔をしていたので、「何だろう? 家賃を上げる? 長いこと住んでいるのでそろそろ出てけ?」とでも言われるかと勘ぐった。
すると息子さんは、「貸している駐車場のことで訊きたいことがあって」と話し始めた。
借家と一緒に借りていた駐車場のことで、大家宅や借家からは直接見ることができないやや離れた場所にあった。
息子さんは、最近、駐車場の辺りで不審者を見かけなかったか、と質問してきた。
駐車場を借りているといっても、正直なところ車に乗り降りする短い間のことしか分からない。
「そういう人は見おぼえがないですね・・・」と伝えると、「そうか、もし見かけたら教えて」と言ってきた。
続けて聞かせてくれた話によると、最近その駐車場に鎌が刺されるようになったと言うのだ。
駐車場といっても1台分きりで舗装はされておらず地面は土のままで、端の方の一画にはいろいろな木がまとめて植栽されているような所。
そのため、地面に何か物を刺すことはできる。
厳密に言うと鎌が刺されているのは駐車場自体ではなく、木が植栽されている一画とのこと。
息子さん曰く、鎌を抜いても数日後にまた刺してあるという。
本数は13本。
13本が一度に刺してあることもあれば、ある日は7本で、それを抜いても合計が13本になるよう、次の日に6本刺されていることもあるそうだ。
しかも、駐車場の一画に植えられた木の中で一番背の高い木を中心に刺してあるらしい。
大家側では気に病んでいて、夜中の1時頃まで駐車場付近で見張っていたり、その背の高い木が何か迷惑をかけているのではないかと枝を切ったりするなど、思いつく対策をしたようだ。
警察にも届けたという。
ある日、自分が車に乗って出かけようと駐車場に行くと、それはあった。
刺された鎌。数えると確かに13本。見たところ、どの鎌も新しい。
息子さんの話を、「妙なことをする輩もいるもんだ」とやや他人事のように聞いていたのだが、実際に見てみるとぞみぞみした。
自分の車が傷つけられてはいないことには安心した。
それから1ヶ月経った頃、再び大家の息子さんが訪ねてきた。
犯人が捕まったとのことだった。
あちこちのホームセンターで鎌を万引きしては、あの駐車場の一画に刺していたそうだ。
しかも隣の市に住んでいて自転車で1時間程かけて来ていたらしい。
なぜ、あの小さな駐車場の一画に目が付けられたのか。
警察の話では、犯人は精神障害を患っているとのことだったそうだ。
この文章では「犯人」と表現しているが、特に実害もなく精神障害者だったため、駐車場の件については無罪放免だったらしい(万引きはどう処分されたか不明)。
ぞみぞみって、ゾクゾクなのか、ゾワゾワなのか?
すみません、どうやら方言のようです。
鳥肌が立ってゾワゾワ(これも使わない?)したりお尻がムズムズしたりする感覚なんですが…。