留守番中の異音
投稿者:with (43)
あの物音は気のせいだったのか。
俺は不思議に思いながらも悠長に風呂に浸かり、体を温めた。
やはり子供ながらちょっとの物音がしたら幽霊とかそういった類の怖い想像を掻き立ててしまうもので、俺は一先ず体を温めて平常心を維持する事にした。
そうしていつしか物音の事を忘れて脱衣場に出た俺はパジャマに着替えてリビングに戻った。
リビングには当然両親は居なくて、時間は夜の二十時を過ぎていた。
子供の俺にとっては充分に夜中だったので、やっぱり夜の自宅に自分一人しかいない状況は怖かった。
自分の呼吸音しか聞こえないのも怖いし、カチカチと刻む時計の秒針の音も恐怖の対象だった。
両親が帰宅していないという事はあの音は気のせいか、若しくは外の音だったのかもしれない。
俺は風呂上がりに牛乳を飲もうとキッチンへ向かう。
その時だった。
廊下の方から『タッタッタ』と今度は明らかに人が走っているような足音が聞こえたのだ。
俺はやっぱり両親が帰ってきてると思ってすぐに「お母さん?」と声をかけた。
だが、やっぱり返事がない。
それどころか俺が声を掛けたせいなのか、一切の物音がしなくなった。
俺は息を呑み目を細めて廊下を覗く。
横断歩道を渡るように左右を確認するが人の姿はない。
さすがに鳥肌が立つ程には怖くなってきたが、俺が廊下に出たまま耳を澄ませてみると、二階の方から微かに何やら聞き取れない人の話し声らしき小さな音が聞こえた。
楽観的な俺は「お父さんが電話してるのかな?」なんて思った。
というのも、父は家でもよく仕事の電話をしているし、時には電話しながら帰宅しては家族の邪魔にならないようにそのまま二階へ上がる事があった。
この時も父が電話しながら帰宅して二階に上がったのだと思い、俺は風呂場で聞いた物音も実は父が帰宅した際の物音だったのだと納得した。
だから迷惑にならないように電話が終わるまで大人しくリビングでテレビでも見とくかと、踵を返したのだが、踵を返す際にふと違和感を覚える。
俺が気になったのは玄関土間。
玄関には当然父か母が帰宅していれば外履きの靴が脱ぎ捨てられている筈だ。
しかし、玄関土間には俺の靴しか置かれていなかった。
やっぱり何かがおかしい。
いや、間違いなく父は帰宅していないし、母もまだ帰っていない。
じゃあ、二階から聞こえた声は誰のものだ?
正直、この段階で両親のどっちかに電話するのが最適解だし、万が一泥棒の可能性もあるなら警察に通報するのが賢い判断だと思う。
けれど、この時の俺は何を思ったのか二階へ上がって確かめるという選択をしてしまった。
俺は足音を殺すように手をつきながら階段を上り始める。
未だ聞こえる小さな声。
よくよく集中して聞けば野太い父の声質とは程遠い。
ならば女性かと問われればちょっと違う気もした。
どちらかと言えば自分の声質に近い、子供の声だろうか。
幼い時は、特別に怖いし、環境がかさなるとかなり、怖い!
その気持ちわかります。寂しかったんでしょうね。気持ちが現実となって現れたとか。
子供の時って色々な事に敏感だったような気がします。一人で夜の留守番は怖いですよ。