地中に埋められたのは

「え、掘り返すん？」
「何もなかったら恥かくやろ」

親父はとにかくメンツを気にする性だったから、確実な証拠というか、警察を呼ぶに値する現物を確認したかったんだと思う。
親父が地面を掘り返し進めている傍らで、俺は懐中電灯で地面を照らしつつ現場保存とかいいのかなと考えていたが、親父の掘り返すスピードが思いの外速くて感心してた。
一端掘り返されていたから結構すんなり掘り進めれたと親父は後で言ってた。

でも、いくら掘り返しても結局何も出て来なくて、親父はだんだん「ほんまにここか？」と俺を疑い始めた。

俺は確かに三人組がそこで穴を掘って何かを埋めていたと記憶している。
あいつらが去ってからちゃんとその場所に傘を突き立てたんだ。
俺が親父に「絶対そこやって！」と訴えると、親父も「…たしかに掘り返した形跡はあるんじゃけど」と俺を疑いながらも地面をスコップでつついてた。
もしかしてもっと深い場所に埋められているのか？なんて考えもしたが、親父が掘り返した結果、さすがにこれ以上は掘り返されてないと結論づけてた。

普通に地中が堅かったらしい。

じゃあ、あのブルーシートに包まれたものはどこに行ったんだ。

俺が親父にそのことを話せば、親父は自分の頭を掻きながら「おまえ、寝惚けてたんとちゃうよな」とため息をついてた。
俺は頑なに「んなわけないやろ」と否定して、親父も確認した轍のことも切り出した。
轍については親父も「そうなんじゃけど…」と口を濁していたが、現物が確認できない限りどうしようもなかった。

俺達は一度切り上げて明朝確認することに決めた。
夜では視界が悪い。
太陽の下でなら見落としていたことに気付くかもしれないと考えた。

だが、雨が上がった早朝。
俺は親父と一緒に確認に行ったんだが、やっぱり山林の地中には何も埋まっていなかった。

夜中に親父が掘り返した範囲外にも掘り返された形跡があったから一緒に掘り返したんだけど、何も埋まってない。
親父も「誰かが掘り返したんはそうなんやろうけど…」と悩んでいる様子だった。
たぶん、警察に通報するべきかどうか悩んでたんだと思う。
深夜に不審車両が山に入っていって山中で地面を掘り返して何かを埋めて去って行った。
これだけ伝えれば事件性はありそうなんだが、こうして掘り返して何も見つからなかった手前、悪戯通報だと思われるかもしれない。
親父はそういう細かいことを気にする性分だったから、結局通報しないのかと思ったが、警察官になった知人がいるらしく、後で相談してみると言ってた。

まあ、結局進展は何も無かったんだけど、一応親父から聞いた話。
知り合いの警察官に相談した所、念の為に確かめには来てくれた。
でも、やっぱり同じように掘り返しても事件性のあるものが見つからなかったから、早々に切り上げていったそうだ。
不審車両の件については、田舎過ぎて防犯カメラが無い事から特定が難しい。
その代わり、不審車両を見つけても追跡するなと俺は警察官の人と親父の双方からたっぷり叱られた。