その弾みでBがゆっくりと目を覚ますんだが、よくよくBを見ればBはAの足に噛みついているようだった。
そして、途端に俺自身も急激に痛みを覚えて視線を降ろせば、俺の左腕にAが噛みついていた。
思わずAの頭を突っ撥ねる様に引き剥がすと、Aは「あえ?」と朧気な顔を浮かべて意識を取り戻す。
同じようにBも自分の口の中の鉄分の味と自身の足の痛みに気付いたのか、困惑しながら「あれ?」と放心状態に陥っていた。
俺達はこの訳の分からない状況に困惑していたが、後に落ち着いて話し合ってみれば、三人が同じ夢を見ていた事が分かった。
三人とも井戸の中に引き摺り込まれてから体中を黒い顔に貪り喰われたと語っており、今起きるまでずっと痛みを耐えていたと語る。
その痛みが互いが互いの体の一部に噛みついていたとも知らず、だ。
幸い、噛み痕は浅かったのか、肌の表面に歯が少し食い込んだ程度でそこまで出血はしていなかった。
ただ、あまりにも不気味な夢だった事から、俺達は誰一人発言する事なく黙々と傷口の消毒と手当てを済ませた。
明朝、朝露が乱反射する清々しい景色の中、俺達はこの村を出る事に決めた。
あまりに不可解な事が続いた為、最早調査どころではないと判断して先輩に「体調が悪くなったから迎えに来てほしい」とラインを送り、吊り橋まで降りようと荷造りを始める。
村を出ていく際、仙人に見つかるのではと警戒心を高めていたがそんな事は無く、杞憂に終わった。
村の入口付近に置かれた七つの地蔵が心なしか俺達を睨んでいる錯覚を覚えたが、俺達は逃げる様に速足で村を出て行く。
吊り橋に到着する間近で先輩から「マジ?昼過ぎには着くから待ってて」と連絡が来たので一安心し、これで今日中にはここから離れられると思い、浮足立つ様に身軽になった気分だった。
ただ、吊り橋に到着してから先輩が迎えに来るまで、俺達は残留兵の如く無心で座り込み、雲が流れる様子を虚ろな目で見送っていた。
日が高くなった頃、先輩の車が砂利を踏み込んだ音を奏でながらやってくる。
これで帰れる。
俺達は同じ気持ちで徐に立ち上がると、停車したワゴンの中から先輩が姿を現すのを黙って見つめていた。
先輩「おう。……何かお前ら一日でやつれすぎじゃね?」
先輩の笑顔が一瞬で消え去ると、目に見えて分かる程度の苦笑いを浮かべた。
余程俺達の表情が死んでいたのか、俺達もその視線を浴びて同じように苦笑いした。
先輩「マジで何かあったの?」
俺達の変わり様を認識した先輩は、俺が送った調査報告を思い出したのか、やや怪訝そうな面持ちで訊ねてくる。
そして、俺達が村で見た事をありのまま語れば、先輩は目を輝かせて「マジで?ほんとに?」と食い気味に詰め寄ってきた。
先輩はこういった類の怪談が大好きらしく、興味津々にといった面持ちだった。
しまいには一刻でも早く帰りたい俺達の心情を無視して「ちょっと見てみたいから案内してくれよ」と再びあの悪夢の村に連れ出そうとする。
俺達にとって救いとなる先輩は、同時に敵でもあったのかもしれない。
A「マジでヤバい人居るから止めた方がいいですよ」
B「仙人はマジで危ないですって」
俺達に案内を頼む癖に我先に吊り橋を渡ろうとする先輩に対し、AとBは必死に抵抗するが、先輩はルンルン気分で歩を進めていく。























すげえ
めっちゃ読み応えありました
こういうのもっと読みたい
これ最高
描写がすごい
これほん怖とかの実写で見てみたいな
想像で吐き気がやばかった。怖かった。
漢字で書いた方が読みやすい言葉と、ひらがなで書いた方が読みやすい言葉がある。って文学者が言ってた。
本当に理解しているエンジニアは説明の時に専門用語を使わない。それと似ている
読み応えあるしきちんと怖い
大学二年生で平成後期生まれって書いてるから飛び級でもしたのか?と思ったけど後半って書きたかったのかな?
俺も気になった
2023年1月に投稿で夏休みの話ってことは、どんなに若くても2022年夏に大学二年生=2003年(平成15年)生
平成後期生まれとは言わないわな
細かいかもだけど、こういうとこで1回気になると一気に没入感無くなるからもうちょい設定練っといてほしい
↑
わかる。設定に引っかかると萎えるよな
俺は「排他的であればあるほど研究意欲が沸き立つ」で「オカルト好き」なのに完全に他人任せで調査に関わらない先輩が気になった
翌日迎えに来れるなら別の重要な調査と被ったとかじゃないだろうし
語り手達に状況を再確認させる人物がストーリー的に必要だったのは分かるけどちょっと萎える
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おもしろかった。