知らない家族
投稿者:LAMY (11)
どん、どん。
音が近付く。竹本少年は振り向けない。振り向いちゃいけないと、なぜかわかったそうだ。
彼にできるのは、食卓に上がった食器をじっと見つめることだけ。
どん、どん。
その時ふっと、彼は思ったという。
見覚えのある、使い慣れた青い飛行機柄の箸。
「(あ。これ、僕の箸じゃない)」
後ろの子のなんだ。
そこまで考えたところで、少年の耳になまあたたかい吐息がふっとかかった。
「 おまえんちじゃないよ 」
喉がガラガラに掠れて、萎れた、聞いているこっちが息苦しくなってくるような声で、後ろのそれが囁いた。
お年寄りの声みたいに濁った声だったが、それは紛れもなく竹本少年自身の声だったそうだ。
いや、彼と同じ声だった――といった方が適切だろうか。
どん、と。
背中を突き飛ばされた、と思った次の瞬間、彼は身体と頭に激しい痛みを感じた。
右目が涙やら血やらでまともに開かない。
残っている左目から見える景色は家の中ではなくて、なぜか外だった。
鈍い音を聞きつけて部屋から顔を覗かせた階下の住人が救急車を呼んでくれた。
なんでも彼は、アパートの階段から転げ落ちてしまっていたらしい。
幸い命に別状はなかったものの、頭を数針縫う大怪我をした。
また、右目に大きな傷が入ってしまい、視力が大きく落ちる後遺症も残ったそうだ。
それから彼は、中学生に上がるまでそのアパートで暮らしたという。
あんなことがあったのだから当然彼も両親に引っ越したいと頼み込んだが、その願いが叶うには二年近い時間が必要だった。
アパートで暮らしている間、それからも何度か“自分以外の子供”の存在を感じたことはあったそうだ。
姿を見たり声を聞いたり、あっちから干渉されることはあれ以降なかったそうだが、“おかしいな”と感じることは何度かあった。
だがそれも、念願叶って引っ越してからはぱったりとなくなった。
別にそれ以降見えないものが見えるようになったとかそういうオチもなく、竹本少年――もとい竹本さんは今元気に大学生をやっている……が。
屋根裏に双子のガイジデモ飼ってたんだろか?
死産した子供の霊が一緒に育ってたとか?
さすがに実際に生きている子供を誰にも気づかれないように育てるってのは無理があるだろうし
熟鮨好きの子供はおらんやろぉ
竹本さんが生まれる前にいた子が好きだったお寿司じゃないかな。おそらくお母さんには見えていたんじゃないかな。竹本さんのお兄さんになるはずだった子が。