ノックおばさん

私の住んでいたマンションには「ノックおばさん」という変なおばさんが住んでいました。

普段はそんなにおかしな言動はしない大人しめのおばさんなのですが、朝方になると同じ階のマンションの戸を一つ一つノックして行くはた迷惑なおばさんなのです。

朝方、その「ドンドン」というノックオンで起こされることもあって、大迷惑でした。

私以外にも被害にあった人はたくさんいて、みんなで大家さんに立ち退いてもらえるように頼もうという声も出てきていた中で、ノックおばさんは突然亡くなってしまいました。

原因はどうやら自殺だったと聞きます。

自分で睡眠薬を大量に飲んで自宅で亡くなっていたそうです。

なんだかすごくもやもやする感じで終息したわけですが、ノックおばさんの被害は一時的には無くなりました。

それから半年以上経った頃だったでしょうか。

私は朝方、突然ドンドンと戸を叩かれて飛び起きたのです。

慌ててパジャマのまま玄関の戸を開けたけど、そこには誰もいませんでした。

不思議に思ってまた寝なおそうとしたら、また戸が「ドンドン」と叩かれたのです。

私は懐かしいノックおばさんのことを思い出して、びくっと驚きました。

そして私はもう一度少しだけ戸を開けて外を確認したのです。

そしたら髪を一つに束ねた50歳くらいのおばさんの後姿を見ました。

生前のノックおばさんそっくりの後ろ姿に怖くなって、それから部屋に戻ったけど一睡もできませんでした。

あれが誰だったのかというのはしっかり確認はできていません。

だけど、それから間もなくノックおばさんの幽霊が出るという噂がマンション中に広がりました。

少なくても私が話して広めたわけじゃないのです。

もしかしたらノックおばさんは今もこの辺りを彷徨っているのではないかと思うような出来事でした。