リーダーが、そーっと顔を上げて様子を見る。
初心者さんは熊に銃口を向けて固まっている。
「オーイもういい!死んでいるのは分かっているんだ、銃を降ろせ!今そっちへ行くから待ってろ」
熊を真ん中に8人が取り囲み銃弾の跡を調べる。
誰の弾が当たっていても獲物はチームの全員で平等に分けるのが決まりだ。
ちなみにグループ以外のハンターが初矢を撃ち込んでいたら、
トドメを刺した者より獲物は先のハンターに所有権がある。
初心者さん以外の7名が顔を見合わせて沈黙した。
リーダーの放ったカービン銃が脇腹に一発、たった一発当たっているだけだ。
あの一斉射撃はどうだったんだ?
初心者さんのトドメの一発は?
目と目でうなずきあった。チームの恥だ、内緒にしておこう・・・。
リーダー「今日は、これでおしまい」
朝6時から始まったイノシシ猟は思わぬ展開になり、10時に終わることとなった。
野生の動物は自然には無い音や臭いに敏感だ。
この付近には、しばらくゲームは近寄らないに違いない。
この急勾配では解体作業は難しい。狩り宿まで持っていこう。
手首ほどの太さの立木で幹が長く枝が生い茂っているのを見つけて、
根から20センチのあたりを散弾銃で撃つ。ダルマ落としの要領でズボッと樹が切れる。
切り口は楊枝を束ねたようだ。枝の部分にゲームを乗せて、山道を引きずり下ろすのだ。
狩り宿が見えるとホッとする。
ところで、ひとつ不思議なことがあった。
なんと、熊の致命傷となったその銃弾の穴には、草の葉がしっかり詰まっていたのだ。
リーダーがカービン銃で初弾を浴びせてから一斉射撃までの20分、
熊に近づいた者は誰もいないのだから、熊自信が自分で止血したとしか考えられない。
ご存じのあの熊の手で、草をむしって、それを柔らかくもんで傷口に詰める。
生きるための壮絶な戦いをしていたが、ついに絶命してしまった。
哀れな熊を目の当たりにして我々の心の中でなにかが変化するのを自覚した。
丸腰で逃げるしか生きる道の無い動物を、
近代的な銃器でよってたかって殺してしまうこの行為を
果たして神様は許してくれるのだろうか・・・?

























kamaです。
こちらのお話の解決編として「-事件記者 朽屋瑠子-」という作品も書かせていただきました。
こちらの作品に登場したリーダーが主要メンバーとして登場します。
合わせて御覧ください。
shortの「狩の真実」から来ました。長編は読み応えがありましたー!
友人が猟をするので話を聞いたことはいくらもあるのですが、臨場感でどきどきしました。お見事です。