気づくべきではなかったこと
投稿者:そぼろ豆腐 (1)
スーツの男は無言で、太郎を殴りつけて床に転がした。
映像の中の太郎はうめき、のたうちまわりながら、大声で喚いている。
「嫌だ! いやだあああああああ」
床に押さえつけられ、絶叫する太郎。
スーツの男は、ポケットから注射器を取り出し、それを太郎に突き刺した。
太郎は涙と鼻水にまみれながら、よく聞き取れない言葉をわめいていたが、すぐに脱力して意識を失った。
映像はそこで終わっていた。
「……と、最後はいささか乱暴なやり方にはなりましたが、ご覧の通りです。お約束の報酬をお支払いいたします。よろしいですね?」
そう言うスーツの男に、現在の太郎は、気味の悪い思いながらも、おずおずと頷いて封筒を受け取った。
ずしりと重い。現金百万円の重み。俄然心が高揚してくる。
笑顔の男に見送られて、太郎は無事に施設を出た。
帰り道、太郎は久々のわが家に向かいながら、といっても太郎の記憶ではつい数時間前に出たばかりなのだが、にやにやしながら考えていた。
俺にとっては、何もしてないのにいきなり百万貰えるなんて、ラッキーだったな。最高の仕事じゃん。
映像の俺もさっさと薬を飲めばよかったのに、なんであんなにゴネてたんだろ。毒だと思ったのかな? 毒じゃなかったけど。
太郎は口笛を吹きながら、しばらく歩き続けた。
やがて、自宅のアパートが見えてきた。
少し早歩きになって、向かいながら、
突然、太郎は気づいた。
無表情になり、立ち止まる。
目を見開き、考えながら。
ひょっとして……いや……。
俺は、薬で消されたという俺の記憶を、全く覚えていない。
それは「俺」の記憶じゃない。
それじゃ、あの怪しげな作業をやっていたのは、誰だ? 誰ということになるんだ?
もちろん俺だ。
俺じゃない、俺だ。
俺の体は一つだが……そうすると、俺の意識は、二人分、存在してることになるんじゃないか?
太郎A。
施設に到着した後、目を覚ますと百万円稼いだことになっていた。体感では、ほぼ一瞬の出来事。つまり俺だ。
太郎B。
施設に到着した後、何日も謎の作業をやって、最後に記憶を消された。俺じゃない。
さいごの一文ワロタww
5億年ボタンみたいにしたかったのかな?
太郎A.Bにするより、なにをさせられてたかの方が怖かったかも
いや、太郎Bヤバいヤツじゃん。
11日間ぶっ通しで帳簿とにらめっこだなんてそうそう出来ない。
多分、太郎は普通の人になったんじゃね?
意味解らんけど同じ自分同士だからいんじゃね?
最後笑う