当時の友人もそう思いながら広がる景色を眺めていたという。
自分たちの住んでた地域は連山に囲まれた盆地のような地形だったから、畦道の奥はむき出しの山肌が切り立っていた。
特に面白味はない。ボール遊びを再開するか、妹も田んぼばかり眺めてもヒマだと感じるだろう、と隣を見ると、
「…あながある」
山肌の一点をジッと見た妹が、友人の服の裾を弱々しく握った。
友人が妹の視線を辿ると、
「山肌にポッカリ、穴が空いてた。結構大きく見えたよ。人が入って行けそうな、洞窟の入口くらいあるように見えた。おかしいなって思ったんだ。ついさっき見渡した時あんな穴あったっけって」
「穴…とは、あの学校の裏手方面の山肌か?」
「そうそう。…ん?何かあった?」
「…いや、後で話そう。それで、妹とその穴を見つけて…」
「ああ、ええと、そうだ、その穴見てた妹ちゃんが段々顔色悪くなっていったんだ」
具合が悪いのかと思い聞いてみると首を横に振られた。服の裾を持つ手は震え、身体は強張っている。
怯えているようだった。
「正直、あの時の自分じゃ想像つかなかったんだ。あの時、俺と妹ちゃんの『見えている景色』がまるで違うなんて」
「…無理もない。それで、聞いたんだな。妹に」
友人はほんの少しだけ顔を曇らせながら頷いた。当時の友人は怯える妹に「どうしたのか」と聞いた。
妹は
「ないしょにしてね。『こういう』の、ほかの人にあんまり言っちゃダメって、お母さんから言われてるの」
と言いながら、拙いながらも詳細に教えてくれた。
あなのまわりにまっ白な人がいっぱいいるの。
大きい人と小さい人がいて、風にふかれてるみたいにユラユラゆれてる。
まっ黒なあなから、黒いけむりみたいなのが出てきてる。
「説明してる間、妹ちゃんは穴を指差しながら、」
けむりが、まっ白な人にからみついてる。
けむりがからんだ人は、ユラユラゆれて、でも最後はあなの中に黒いけむりと消えていっちゃう。
「瞬きもしないで穴を見つめ続けてた」
黒いけむりが大きな手みたいにみえる。
大きな手が、
白い人をわしづかみにして、
あなの中に引きずりこんでる。
1人、1人、ユラユラゆれてるのもまるでにげようとしてるみたい。
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