エアー家庭教師
投稿者:ねこじろう (147)
一人は、エプロン姿のSさん。
そしてもう一人は、
紺の中学の制服に身を包んだショートカットの女の子だった。
顔のところは影のように黒い。
俺は強張った笑顔で軽く会釈をすると速足で駅に向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから春になって新たなバイトを見つけた俺はキャンパスライフと両立させながら、まあまあ充実した生活を送っていた。
そんなある日の夕暮れ時のこと。
駅そばのコンビニのバイトを終えた俺は電車に飛び乗り、帰宅の途についていた。
特急の通過待ちで電車がとある駅に停車したとき、俺はふとその駅で途中下車をした。
そして改札を出ると、駅から北に走る坂道を歩きだした。
この道をしばらく歩くと、あのSさんの家があるはずだ。
これといった用事があったわけではなかった。
ただ何となく、あの家をもう一度見たかったのだ。
朱色の西日を浴びながらどんどん進むと、見覚えのある住宅街が眼前に広がってきた。
記憶を頼りに区画された道を歩く。
するとブロック塀の向こうに、懐かしい赤茶けた屋根が見えてきた。
俺は門前のところまで行くと立ち止まり玄関に視線を移す。
玄関に通じるエントランスは、何故か雑草が伸び放題になっていた
玄関ドアに何か白い紙が貼ってある。
そしてそこに大きく書かれた文字を見た途端、俺はちょっとした衝撃を受けた。
そこには「売り家」という文字。
─Sさん夫婦、あれからどこかに引っ越したのかな?
呆然と門前に立ち尽くしていると、背後から声がする。
「どうかされましたか?」
振り向くとそこには黒いスエット姿の初老の男が立っていた。
俺は慌てて「い、いえ、あの、私、Sさん夫婦の知り合いなんですけど、
すみません、あのお二人どこかに引っ越されたのですか?」と尋ねてみた。
男は悲しげな顔で俺の顔を見て、こう言った。
「ああ、Sさん一家ね、、、
ここは本当気の毒なご家族でした
奥さんが教育熱心な方でねえ、それはそれは熱心に娘さんの教育をされていたんですよ。
でもある日娘さんが部屋で自殺しなさってねえ。
プレッシャーに耐えられなかったんでしょうねえ。
奥さん相当ショックだったのでしょう。
葬式を終えた後も娘さんが生きていると言い張りだしたそうです。
ご主人それで相当悩んでらした。
そして娘さんの初七日の日。
Sさんが車で嫌がる奥さんを、何とかお寺に連れていった帰る道すがら交差点でトラックと衝突してしまったんです。
ご主人も疲れておられたのでしょうな。
奥さんは即死でした。
Sさんは一命をとりとめたんですが、ショックからか退院してからは明らかに言動がおかしくなりました」
怖い。。虚言癖というか旦那さんが可笑しかったんですね。
家庭教師募集のあたりから、話のなかにひきこまれていった。文章うまいですね。