エアー家庭教師
投稿者:ねこじろう (147)
「おかしく?」
俺の言葉に男は小さく頷くと、続ける。
「はい。
奥さんはもう亡くなってしまったというのに、まるで一緒に生活しているみたいな言葉や行動をし始めたんです。
休みの日とかに道で会うと、これから夫婦で買い物に行くんですって嬉しそうに言ったり、妻がうるさいから娘のために家庭教師を雇おうと思っているとか言ったりして、それで本当に大学生がバイトに来てたみたいですよ。
娘さんいないのにですよ。
Sさんも分かっていたはずなのにね
それで今年の2月頃でしたかな。
実はこの家を売りにだして引っ越そうと思っていますと言われていたのが、私がご主人とお話した最後でした。
ところで、あなたSさんのご親戚か何か?」
俺は男の質問には苦笑いをして答えず、薄暗くなった路地を再び歩き始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
駅に着き改札を抜けて、プラットホームで電車を待っているとき、俺はジャケットのポケットから携帯を取り出すと、電話の履歴からSさんの番号を探した。
ようやく見つけると、かけてみる
だがすぐにこの番号は使われていないという、ガイダンスが聞こえてきた。
次の電車が近づいてきているというアナウンスがホームに響き渡る
俺は携帯をポケットに戻すとゆっくり白線まで歩を進めた。
そして何気に、向かいのホームに視線を移したときだ。
身体が一瞬で凍りついた。
人気のあまりない向かいの薄暗いホーム。
そこにはSさん一家の三人が並び立ち、満面の笑みを浮かべながらじっとこちらを見ていた。
【了】
怖い。。虚言癖というか旦那さんが可笑しかったんですね。
家庭教師募集のあたりから、話のなかにひきこまれていった。文章うまいですね。